2017/12/01発行 ジャピオン944号掲載記事

共感マーケティング

第156回 至善にとどまる

 人間の世界には「サイエンティフィカリー・コレクト(科学的に正しい)」けれど、「エモーショナリーアグリーメント(感情的な共感)」が得られないことというのがあります。

 ユーグレナ社がミドリムシを普及させようとした際に当たった壁がまさにそれで、いくらミドリムシが体に良いと科学データを示して証明しても、初めて耳にする人は「なにそれイモムシなんでしょう?」と拒絶してしまう。また、ライブドアから出資を受けていたというだけで取引先から拒絶されました。実際は独立した経営をしていたにも関わらず。

 2005年12月、世界で初めてミドリムシの大量培養に成功し、さあこれから、という翌年の1月16日、東京地検特捜部の強制捜査がライブドアに入ります。ユーグレナは六本木ヒルズのオフィスに間借りしていたため、一緒と見なされ、取引先が手のひらを返したように去っていきました。

 それから厳しい逆風が吹いてようやく事業が軌道に乗り始めるまで3年かかりました。出雲社長は「たとえミドリムシが社会にもたらすメリットが科学的には正しくても、人々に感情的な共感をもって受け入れられるためには、それだけの時間が必要だった」と著書(*)でおっしゃっています。この、「正しいかも知れないが、受け入れられない」ということは、自社の製品・サービスを見直す際に、大事にする必要があります。

削減のにおいに違和感 

 出張で金曜日都内に、土曜日大分に泊まりました。いずれもよく利用するホテルチェーンで都内はA、大分はBのチェーンでした。AとBは経営は別ですが「出張族の味方」というコンセプトが似ていて、まるで双子のようなイメージでした。全国展開しているため、AでもBでも特にこだわらず訪問先に近い場所にある方を選択していました。

 ところが昨年あたりから違和感を感じ始め、今回の宿泊体験で、その違和感がはっきりと形になりました。Bが貧しくなっているのです。具体的には、アメニティーの歯ブラシが安っぽくなり、タオルが3枚あったのが2枚に。朝フロント前に用意されていた朝刊が廃止。清掃もイマイチで、デスクの上が埃っぽい。至るところで「コスト削減」のにおいがします。お客さまは敏感に感じ取ります。

 一方、Aは「これまでやっていたことを削減」はせず、それどころか部屋にスマホが置いてあり、「滞在中は自由に使ってください、SNSなどネットはもちろん海外への通話も無料です」と新しいサービスを追加しています。

正しいが共感できない 

 コスト削減は怖いところがあって、ダイエットして効果があると面白くなって「痩せることそのものが目的化」してしまう心理に通じる弊害が生まれます。そう、コスト削減が自己目的化してしまうのです。経営的には数値が改善されるので経営者は担当者を褒めたり自分のアタマをナデナデしたりするのかもしれませんが、「科学的には正しいが、感情的には共感したくない」心理をお客さまに生みます。

 古典『「大学」に「至善にとどまる」というフレーズがあります。意味は、「ここまではやるが、ここから先はやらない」と明確に線引きすること。つまり、「越えてはいけない一線」を認識していることがブランドを成立させる重要要因なのです。「うちがお客さまから支持されている理由」を定期的に振り返りましょう。そして、至善にとどまりましょう。

*「僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。」(出雲充、ダイヤモンド社)

阪本啓一

今週の教訓
コスト>お客さまは間違いです

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。

「それは、『いま世界で、自分ほど、ミドリムシについて真剣に考えている人間はいないはずだ』という思いだった。」(本文から引用)

 いやー。この本は久しぶりに読む「泥臭い体験物語」です。ページを繰るのが惜しいくらいに面白い。

 登場人物がみんな魅力的で、ヘタな小説読むより引き込まれます。著者は学生時代、グラミン銀行のインターンでバングラデシュを訪れ、現地の人々が「食べるもの(お米)はあるのに、栄養が足りてない」状態を目の当たりにします。これをなんとかしたい、という思いで、文系だった学部を農学部へと転籍し、栄養問題を解決しようとします。それからミドリムシに出会い、事業として起こし…。

 ライブドア事件の渦中に巻き込まれ、世間の冷たさ、事業の厳しさを散々味わいます。その時支えになったのが、「ミドリムシで地球を救う」という世界観でした。

 起業家に限らず働くすべての人におすすめです。

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント