2017/10/20発行 ジャピオン938号掲載記事

共感マーケティング

第150回 狭く・濃く・高く・コツコツと

 「MINIATURELIFE展 田中達也 見立ての世界」に行くと、手にスマホを持った老若男女であふれていて驚きました。田中達也さんは2011年から毎日ミニチュアの写真をインスタ投稿し、人気となり、独立した作家です。

 今年度上半期のNHK朝ドラ「ひよっこ」オープニングに彼のミニチュア作品が採用されたことも人気に火をつけています。ドラマは人気のうちに9月30日最終回を迎え、早くも「ひよっこロス」がツイッターなどで流れています。

 企画するのに対象を年齢で考えることの無意味さを教えてくれています。まさに老若男女集っていますから。では何で考えるのかというと、「インタレスト(興味関心)」です。しかも現代はそのインタレストがマイクロ化、極小になっています。田中達也さんの作品の着想が面白くて、楽しくて、年齢を超え人が集まっています。インスタグラムは始めて6年、88万人のフォロワーがいます。

コッペパンだけで勝負 

 東京・JR亀有駅そばに店を構える吉田パンはコッペパン専門店です。コッペパンだけに絞り込むのは相当勇気が必要だと思うのですが、一日2300個を販売し、廃棄ロスはほぼゼロといいます。吉田パンでは、お客さまが注文した具材をその場でコッペパンにサンドする対面販売をしています。商品ラインアップは30種類ほど、このライブ感が売りといいます。(参考『商業界』2017年11月号記事)

 とはいえ、ただ狭く、濃くするだけではダメです。田中達也さんが人気を得たのはやはりミニチュアや見立ての精度、写真の美しさ、着想の面白さがあってのこと。クオリティーはとても高い。いまの時代、みんな目が肥えています。だから中途半端な作品では見向きもされません。クオリティを高め、コツコツと毎日継続する。

SNS時代の売り方 

 SNSで個人と個人がつながりっぱなしの時代の売り方は、こうです。売る、というより、自然に広まるという自動詞的な営みですが。

①売る前に、あなたのビジョンに対する共感を接着剤にしてエコシステムを作る

②どんな共感や喜びを循環させるのかイメージする

③それを果たす力をもった商品を開発する

④その商品をエコシステムにそっと置く

⑤自然に広がり、口コミされ、商品が共感ウィルス化する
⑥届くべき人の元に届いていく

 毎日コツコツと投稿する。それを88万人のフォロワーが目にする。しかしその投稿がおざなりのものであったり、つまらないものなら、たちまちフォローを外されます。法的に決まっているわけではないし、ネットの海には他にも面白いものは山ほどあって、容易にみんなのアテンションを奪います。

 かつてマス・コミュニケーションの時代であれば87万7000人に届けようとすれば、広告代理店に想像できないくらい高額なお金を支払わないと無理でした。

 しかしいまは、毎日コツコツ、高いクオリティーの作品をインスタに投稿し続けるだけで88万人に届けられます。大事なことは①の、「あなたのビジョン」です。世界にどんなインパクトを与えたいのか。田中さんは「日常生活でよく見掛ける製品を使って、まったく違う世界を見せる」。

 例えばクロワッサンを雲に見立てる、チャーハンが中華鍋で調理中、勢い良く飛んでいるのをサーフィンの波に見立てる、などの「くすっと笑える視点」「着想の妙」に共感が寄せられています。

阪本啓一

今週の教訓
広めたければ、狭くいきましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

セス・ゴーディン出し抜く力(特盛り電子版)

「マーケティング戦略家が売るのは『希望』である。」(本文から引用)

 原書「Whatcha gonna do with that duck?」はセスの人気ブログ記事(2006〜12年分)を編集したものです。

 読み応え十分なのですが、いかんせん600ページあって持ち運ぶには重い。翻訳はその中からさらに厳選し、再整理して章立ても新しくしてくれています。

 監訳者も言っていますが、セスは「やる気」を引き出す文章が実にうまい。SNSの時代、発信戦略を個人も企業も店も持っている必要があります。

 発信戦略とは言い換えれば①どんなマイクロ・インタレストを満たすのか②そのためにはどのメディアを選択するのか、です。どのページを開いても、刺激をもらえること受け合い。

 オススメは「特盛り電子版」、単行本版の2倍の総ボリューム。

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