2017/09/08発行 ジャピオン932号掲載記事

共感マーケティング

第145回 シード・クリエーション

 衣食住という人間の根本的な欲求が満たされたこの時代、人々はもう、「モノ」は必要としていません。では経験や体験?それも滅多なことでは財布のひもをゆるめてくれません。アクション映画をもっと破壊、もっと乱暴にしても、観客が感心しないのと同じです。新しい技術を使って「リアルに」「3Dで」体験できるようになったとしても、それはエンターテインメントの本質ではないですよね。そんな「満たされたお客さま」を振り向かせる商品(モノやコト)を開発する新手法が「シード・クリエーション」です。手法というより、考え方ですが。

新たな意味付け 

 シードには二つの意味があります。第一に、購買動機になる「種」という意味。お客さまが「欲しい!」と思ってくれる理由。第二に、お客さまが自在に育ててくれる用途開発の「種」という意味。商品設計者サイドでは思ってもみなかった使い方が広がるのが現代の特長です。そのシードをクリエートしましょう、という考え方が「シード・クリエーション」。といっても、まったく新しいものをゼロから生み出すのではなく、既存のモノゴトに新しい意味付けをする。

 例を挙げます。スナップチャットは無料のスマホアプリサービスです。投稿された写真・動画は一度見られると自動消滅します。かつての写真・動画は記録するためのものでした。長く人の記憶に残したい動機が働いていました。

 スナップチャットの写真・動画は「仲間との交流」という新しい意味付けをされ、楽しい会話を生み出してくれるツールになったのです。

 車は所有し、自分の富のステータスを表現するものでしたが、移動するためのツールという意味が付与され、カーシェアリングが盛んになりました。

 インスタグラムによって、ランチやディナーが「インスタ映え」するかどうかの脇役になってしまいました。主役はインスタ投稿の写真・動画です。へたすると、人生のイベント(お誕生日会、結婚記念日、家族旅行など)や景観もインスタの脇役に意味を転換してしまったかもしれません。

技術が新業態を産む 

 会社を存立させている基礎技術もシードになり得ます。「evertron」社は40年間、水分子コントロールの基礎研究を続けてきました。その基礎研究がシードとなり、フライヤー(揚げ物に使う厨房機器)に入れるだけで画期的な効果を生み出すドクターフライという製品に結実しました。

 ドクターフライは天ぷら初心者でもおいしくカラッと揚げることができるようになるため、お客さまの回転率を高めて儲けるビジネスモデル「立ち呑み×天ぷら」という新業態(東京・恵比寿の「喜久や」)を生み出しました。何しろ、エビ、レンコン、シイタケなど、違う食材を全部一緒に揚げられるのですから、調理が格段に加速します。研究は、もちろん人間の体内にある水分子にも応用可能です。「evertron」社は医療分野への進出も視野に入れているようです。シードがしっかりしているからできることです。

手法は二つ

 第一に、既存のシードに新しい意味を付与する。第二に、自社の基礎技術を棚卸しする。第一のために、気付く力を磨きましょう。そのために「本当にこれはこのままでいいのか?」と批判的なレンズで世界を見る習慣を持つようにします。ビジネススクールが「乾いた」理論だけを教えているのを見て、人間的なアプローチをしてみようと、17年前、阪本塾を始めました。

阪本啓一

今週の教訓
新しい意味を付け加えましょう。

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

突破するデザイン

「もしあなたが人々に愛されるモノゴトを創造したいのであれば、問題解決からは離れたほうがよい。愛について考えるのだ。」(本文から引用)

 旧来のビジネスは問題を発見し、その解決を図るものでした。しかしながら、チャーミングな商品はそれを使う(体験する)ことで何かが解決する、というものではなく、「愛くるしいから接していたい」という極めて個人的な動機で購入されます。

 著者は「愛から始めよ」という、独自のアプローチを提案します。そして、意味のイノベーションをしようと数々のプロセスを紹介してくれます。

 キャンドルは照明器具から、癒やしという意味のイノベーションを果たし、ヤンキーキャンドルはヒットブランドになりました。偶然ですが、私の塾生が北海道で自然派キャンドルを制作し、人気ブランド「キミノアカリ」に成長しています。シード・クリエーションのためにも、一読をお勧めしたい一冊です。

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