2017/09/01発行 ジャピオン931号掲載記事

共感マーケティング

第144回 気付き過ぎる人

 フレンチレストラン。空気感がとても良い店で、テーブル間も適度に距離があり、他のゲストのことを気にせず、ゆったりできます。そして料理もワインもとびきりおいしい。最初に乾杯のために用意してくれたスパークリングワイン、大抵こういうものは「こんなもんでしょ?」的な気合いの抜けたものが多いのですが、しっかりとした、味わい深い本格派でした。しかも価格はリーズナブル。

私が店を背負っている 

 接客してくれる女性がプロフェッショナル、言葉遣いや所作が美しい。時間が早いせいか、店内の客は私たちだけでした。

 そのため静かなのですが、従業員同士の話し声が気になる。先程の女性スタッフと男性スタッフが話しているのです。仲が良いのはいいけれど、店の空気にはそぐわないよなあ、と思っていました。仮に女性をAさん、男性をB君とします。

 どうやら、二人は談笑しているのではなく、AさんがB君を叱っています。叱る、というか、訓戒をしている。フロアスタッフはこの2人のみで、B君の方が年下。彼は確かに「目から鼻に抜ける」タイプではなさそう。パンのおかわりを置くのに、シェアで使っている料理皿の上に一瞬置いて「失礼しました!」とやるような。

 Aさんは「私が店を背負っている」意識がある熱い人。オーナーからすればありがたい存在です。ただ、ここでオーナーは、経営者としてもう一つの目線も持っておく必要があります。それは、Aさんは気付く人だけれど、気付き過ぎるのも考えもの、という点です。気付き過ぎると何の問題があるかというと、二つあります。

気付き過ぎる人の問題 

 第一に、周囲がみんな、ばかに見えてしまう。

 「自分はこんなにあれこれ気付くのに、どうしてあの人はぼんやりしていられるの?ばっかじゃないの?」

 第二に、自己評価が実力以上に高い。「他人からの評価」を気にするのだけど、上司であれ、同僚であれ、確実に自己評価の点数より低くなってしまう。するとがっかりしたり、落ち込んだりしてしまう。実はこれは一人相撲で、無駄なエネルギーなのです。

 なぜこれが分かるかというと、若いころの私がそうだったからです(笑)。今は年齢を重ね、自分のアホさ加減も理解できているつもりなので、人へ矢は放ちませんし、そもそも「人からの評価」を全く気にしなくなりました。

 西郷隆盛の言葉「人を相手にせず、天を相手にせよ。天を相手にして、己(おの)れを尽くして人を咎(とが)めず、我が誠の足らざるを尋ぬべし」に出合ったことも大きいです。何か残念なことが起こったら、全て自分の身から出たさび。そして、必ず起こったことは全ていいこと。人生哲学が定まったから、人がどう思っているのか、というのは圏外になりました。

「できる人」にケアを

 Aさんはきっと、B君に毎日イラついています。どうしてできないのだろう。何でこんなことにも気付かないのだろう。そしてオーナーに直訴します。ところがオーナーは「ま、そのうち慣れるだろうから」みたいなぬるい返答。「こんな店、辞めてやる!」と、辞表をたたきつけてしまいます。Aさんはまだ発展途上の人。経営者は彼女のような「気付き過ぎる人」こそ、丁寧にケアする必要があります。大抵世の中は、気付きの少ないB君タイプが店に残ります。「できる人ほど外へ出てしまう」と嘆く前に、十分なケアをしてあげましょう。ケアが必要なのは、気付き過ぎる人、Aさんの方なのです。

阪本啓一

今週の教訓
出来る人ほど、ケアが必要

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

ヨコから見る世界史

「入試に関係なく世界史をマクロ(巨視)的視点で眺めることは、若い人にとって必須不可欠です。」(本文から引用)

 著者によると、難関校は問題を問う視点が変わっている(ヨコから問う)から難問なのであり、細かい人名や事件が難問なのではないそうです。

 この視点は、現代に生きる私たちにも必須だと思います。スマホを肌身離さず持ち歩き、国境を超え、SNSなどを通してつながりっぱなしになりました。だからこそ、ケニアの一見小さな事件が、ニューヨークの事件につながることがあるのです。ヨコから見る視点を養うのに最適な一冊。

 知的興奮に満ちた、世界史の復習にもなります。ローマ帝国は豊かな土地に恵まれていたため、当初は地味な農業国家だったが、商業国家として地中海を抑えようとした流れで、巨大な帝国になっていく…。ヨコから見る、というのは、歴史を動かす動機に着目する、ということです。

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