2017/08/18発行 ジャピオン929号掲載記事

共感マーケティング

第142回 遊び、楽しさ、わくわくを

 決まり切った言い方に、「私たちを取り巻く経済環境は激変している」というのがあります。分かったような気になりますが、実際に何をすればいいのか分かりづらいですよね。これを言い換えてみましょう。「私たちのお客さまの『欲しい』スイッチが常に変化し続けている」です。思えば、商売とは、「お客さまの『欲しい』スイッチを開発すること」と言えます。

「欲しい」スイッチ 

 市場開拓とは、言い換えれば「欲しい」スイッチを増やすことです。その意味で、昔ながらの「売り込み」は的外れだと分かります。欲しいスイッチもない人に「買って!」と言うようなものですから。

 モノがない時代、モノさえあれば売れました。「モノを手に入れたい」が「欲しいスイッチ」だったのです。食べるものが足りない時代なら、食べ物さえあれば売れました。

 飽食の時代になり、兵庫県丹波篠山(たんばささやま)の「西紀(にしき)サービスエリア」の食堂で「ガチャめし」が生まれました。お客さまが500円コインを食券機に入れ、ガチャガチャと回して出てきた食券でメニューが決まる、というものです。最低でも600円以上のメニューで、大当たりは「但馬牛、但馬牛うどん・そばセット(2100円相当)」。

 お客さまが食券機の前に長い行列を作ってしまう。その対策会議で「お客さまの回転率を上げる」などのアイデアが出る中、ある社員が「昼飯なんか、なんでもいいわー」ともらした一言がきっかけになったそうです。場所はサービスエリア。専門のレストランではあるまいし、お客さまは何を食べたいか、券売機の前に来てから決める。だったら、食券を買う行為そのものを遊びにできないか。史上初、「ガチャめし」が誕生した経緯です。「欲しい」スイッチを、「食べたい」から「遊び」に変えたのです。

抜歯直前の悲しい顔 

 ハードよりすさまじく残念だったのがソフトウエア、サービスです。フロント前のカフェでランチを取ろうとしました。入り口で「軽い食事はできますか?」。悲しい顔が答えます「サンドイッチ程度しかありません」。ものは言いようで、これが真夏の炎天下のような厳しい競争にさらされている街のカフェであればどう言うか。「はい!当店自慢のおいしいサンドイッチをご用意できます!」。

 とにかくここで働くフロアのスタッフ全員が、「今から抜歯に行きます」といった悲しい顔をしています。
言い出せばキリがないほど、このホテルは残念なサービスでした。イラッとする残念さです。

遊びがスイッチになる

 ガチャめしは、現代のお客さまの「欲しい」スイッチをよく表しています。それは、「遊び」、「楽しさ」、「わくわく」がスイッチになるということです。また、お客さまのインタレスト(興味関心)がマイクロ化しています。十人十色といいますが、一人十色、一人の中にもさまざまな極小のインタレストが存在しています。

 株式会社岡田商会の岡山耕二郎さんは印鑑、はんこの世界に「楽しさ」を加えることで成功しています。米国と違って、日本ははんこ文化といわれますが、それも昔の話。口座開設に印鑑不要な銀行が出てきて、はんこは社会的使命を終えようとしている環境です。そんな中、岡山さんは、はんこという「義務を遊び」に、「遊び心あふれる面白文具」に提供価値を変えました。マイクロインタレストを意識して企画し、狭く、濃いインタレストにフォーカスしました。動物のイラスト入りの印鑑は「ねこずかん」からはじまり、「いぬずかん」、「くまずかん(くまモンシリーズ)」、「仏像図鑑」、「浮世絵図鑑」、「妖怪図鑑」、「三国志図鑑」など、31種類もあります。全部見ることのできる「ずかんミュージアム」という特設ページも用意しています。(www.rakuten.ne.jp/gold/hankos/zukan/dobutsu

 あなたの商品がどんなものであれ、「遊び」「楽しさ」「わくわく」を込めることができるはずです。一番重要なことは、誰よりもまずあなた自身が楽しむこと。遊ぶこと。それが自然に、お客さまへと伝わるのです。仕事そのものを喜びにしましょう。何かいいことがあったから喜び、ではなく、仕事することそのものが喜びと捉えましょう。健康で働けることの他に、喜びはそうないと思います。

阪本啓一

今週の教訓
まず、あなたが楽しみましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

The Beatles Lyrics 名作誕生

「わざわざきれいな紙を探しに行く気になれなかった彼は、郵便局から届いた請求書の裏に、最初の草稿を書き留めた。(アイム・オンリー・スリーピング)。」(本文から引用)

 著者はビートルズ公認の評伝作家で、この本でやったことは、①彼らの曲のオリジナルバージョンを調べ、歌詞の原稿を見つけ出す。②その歌詞がいつ、どうやって書かれ、レコーディングやスタジオに入るまでの間に、どのくだりが変更され、あるいは没になったのかを突き止める。③初稿と完成形の歌詞を比較し、その意味、出典、名前、場所、フレーズ、表現を解説。

 若くして有名になったビートルズ、中でもジョンとポールは生活や仕事、移動の中で歌詞を書き留めていました。その形跡を写真で眺めるのも楽しいし、著者のオタクっぽい解説も興味深い。「ヘルプ!」の「My inde- pendence seems to va- nish in the haze(独立独歩もすっかり怪しくなったみたいで)」は私が大好きな歌詞で、著者が絶賛しているのがうれしかったです。

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


ただいま配布中発行

巻頭特集
人気が過熱するブルックリン区ウィリアムズバーグ...

   
Back Issue ~9/7/2018
Back Issue 9/14/2018~
利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント