2017/08/11発行 ジャピオン928号掲載記事

共感マーケティング

第141回 基準がおかしい

 荷物をいったんホテルに預け、移動しようと考えました。現地にタクシーで到着しましたが、誰も出迎えてくれません。五つ星の世界的な高級ブランドIです。この時点で「?」と思ったのですが、「たまたま」だろうと思い、自分でスーツケースをゴロゴロと運び、ベルボーイに「チェックインまでまだ時間があるのですが、スーツケースだけ預かってください。できれば部屋に入れておいてください」と言いました。するとベルボーイはあいまいな顔をした後、「分かりました」。

 日本語が通じないのかな、と顔と名札を見ますが日本人です。すぐ移動だったので「ここから町田までどうやって行くのがいいでしょう?」と聞いたら「?」。そこへやってきたもう一人の女性スタッフに「町田までの行き方なのですが…」と言ったら「さあ、タクシーか電車になりますが」という反応。

 検索してしまえば早いのです。でも、あなたたちベルがいる理由はゲストのこういう問い合わせに経験を加味して答えることでしょう。こういう場でゲストにスマホを出させたら終わり、という高級ブランドのプライドは皆無でした。

ソフトもハードも残念 

 ホテルのブランドにはソフトウエアとハードウエアがあります。ハードウエアは設備、じゅう器、ワイファイ環境、窓からの景色など。Iホテルはサンフランシスコと大阪で宿泊した経験があり、いずれも「ベストではないが、悪くもない」という印象でした。横浜は初めてです。重要な仕事が続くので、宿泊と仕事環境を考慮して選択したのですが、失敗でした。

 シャワーを使おうとすると、フィットネスジムかというくらい力いっぱい引っ張らないとお湯が出ません。このスタイル、相当古いのではないか。ワイファイ、今どきマストですが電波が弱い。思いっきり弱い。どれくらい弱いかというと、動画どころかメールが取り込めない。フェイスブックの「いいね」ボタンを押すのに数秒かかる。検索窓に放り込んで1分くらいぐるぐるしている。仕事にならないので、手持ちのスマホでテザリングしました。

抜歯直前の悲しい顔 

 ハードよりすさまじく残念だったのがソフトウエア、サービスです。フロント前のカフェでランチを取ろうとしました。入り口で「軽い食事はできますか?」。悲しい顔が答えます「サンドイッチ程度しかありません」。ものは言いようで、これが真夏の炎天下のような厳しい競争にさらされている街のカフェであればどう言うか。「はい!当店自慢のおいしいサンドイッチをご用意できます!」。

 とにかくここで働くフロアのスタッフ全員が、「今から抜歯に行きます」といった悲しい顔をしています。
言い出せばキリがないほど、このホテルは残念なサービスでした。イラッとする残念さです。

気付いてないのが問題

 周囲に聞けば、ここのホテル、開業時からこういう残念なサービスとのこと。なぜ改善しないのかと考え、気付きました。違うのです。これがここの基準なのです。つまり、ゲストをイラつかせている、ということに経営陣が誰も気付いていない。 

 知人の弟さんが結婚式をしたはいいが、新婚第一夜の部屋が両親と隣同士、しかもコネクティングルームだったと、10年経った今でもボヤくそうです。ここならやりかねません。

 気付いていないから、おそらくこれからもずっとこの貧しいサービスのままでしょう。二度と泊まるまいと決意を固くしつつ、他山の石とせねば、と思いました。

阪本啓一

今週の教訓
気付かないことが一番コワい

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

スピリットサークル(1-6巻)

「怨念は魂の運動を上昇する螺旋から行き場のない円に閉じてしまう恐ろしい力だ。そして許しは全ての在り様を肯定する救いの力だ。その許す力こそが魂が求める何かの一端なのだと私は思う。」(本文から引用)

 輪廻(りんね)転生の話で、一言では言い表せない濃い内容です。著者あとがき(6巻巻末所収)で発想の元が自身の受けた退行催眠体験だと明かしていて、紀元前のギリシャの老人でした。周囲からスフィンクスさんと呼ばれ、地元の名士になっているものの、自分ではあの作品の出来に満足していないこと。息子がそんな父の不機嫌な顔と名声にプレッシャーを感じて家を出て行ったこと…。これはそのまま「フロウ」編になっています。

 人の縁は不思議で、何があっても切れない人がいるかと思えば、あっさり切れて、どんなにがんばってもつなぐことのできない人がいます。各人が各人の「役割」を演じているのだと思えば、世の中そんな悪いものではない。どんなドラマが待ち受けているのか、楽しみになってきます。

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