2017/06/23発行 ジャピオン921号掲載記事

共感マーケティング

第135回 コミュニティーに売る

ひたすら足で稼ぐ 

 私は会社員時代、19年間営業をしました。月に1回「ローラー」と言って、設計事務所名簿と地図を頼りに、ひたすら訪問しまくりました。アポイントなしに、直接ピンポンして訪問します。 

 今から思えばまったく迷惑な話で、設計事務所の先生方の都合を無視した土足営業でした。とはいえ、時代はおおらかな1980年代。大抵の先生たちは事務所のドアを開け、場合によってはお茶まで出して、商品説明に耳を傾けてくれたものです。

 営業マンである私の目的は、設計図面に自分が売っている建材を採用してもらうことです。いわゆる、足で稼ぐという方法。一昔前の「売る」とは、こういうことを指しました。

 しかし、SNSとスマホが普及した今、「売る」は、大きく様変わりしました。

違うアプローチで売る 

 「JOYWOW『あり方』の教科書」は、2009年に、私の会社JOYWOWで自主制作した本です。これは一般書店の流通には乗らない装丁でした。本と一緒にカードボックスがセットで付いているからです。

 この本の使い方は、読者がカードボックスの中から毎朝1枚、カードをランダムに抜き取って、そこに書いてある課題を一日かけて考えるというもの。課題は例えば次のようなものです。

 「『ノーギャラで、オバマ大統領を自分の会社のイベントに呼ぶにはどうすればいいか』。その秘策を書き出す」(これは「オバマカード」と呼ばれ、読者に人気でした)

 一日が終わり、帰宅して、それから本の該当部分を開くと、JOYWOWの答えが掲載されているというあんばいです。

 本とカードボックス。通常の書店ではどこに置いていいか分からないでしょう。それともう一つ、私たちは、実験をしてみたかったのです。つまり、通常の書店で売ることをこれまでのマス・マーケティングとすれば、違うアプローチで売ることができないか。

コミュニティーに発信

 当時まだフェイスブックは一般的ではなく、メールマガジンとツイッターを使用していました。そんな状況でしたが、JOYWOWコミュニティーは、クライアント、受講生、イベント参加者によってできていた。

 正確な数字は分かりませんが、およそ1000人はいたでしょう。そこで、彼らに呼び掛けたのです。「JOYWOWが新しい試みとして、本を制作しました。買ってくれませんか?」と。

 制作は印刷会社を訪問したり、用紙を選んだりすることから全て自分たちで行いました。そして、2009年春ごろからプロジェクトが始まり、その間の動きを逐一、コミュニティーに流したのです。

 そこで「面白そう」「応援するよ」という反応をもらって勇気づけられ、発売日10月1日には前夜祭みたいなことをメルマガとツイッターで流し、コミュニティーを盛り上げました。

 結果、発売初日に200冊売れるという手応え十分な結果になったのです。購入された本は、これまた私たち自ら包装し、宅配業者経由でダイレクトに読者へ届けました。

 コミュニティーに売る、というより、置くイメージ。寮で人の出入りの多い食堂のテーブルに置いておく、それを通りすがりのみんなが手に取っていく、というような。

 JOYWOWは既にコミュニティーを作っていた。だから一般の書店流通に乗せることなく、本を売ることができました。売る前に、コミュニティーを作る。これが新しい「売り方」です。

阪本啓一

今週の教訓
売るのではなく、話題になる

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

発酵文化人類学

「本書は、発酵を通して人類の文化を掘り下げる、世にも珍しい『発酵カルチャー本』。」(本文から引用)

 著者も「JOYWOWの教科書」と同じ手法でこの本を売っています。自分のコミュニティーに呼び掛け、「『好き』でつながっていくつながり」によって初版4000部を発売後わずか1週間で重版。さらに売れ続け、またさらに重版がかかって1万部達成、といった「コミュニティーに届ける」手法でうまくいっています。

 本の内容はディープな発酵菌、酵素、文化人類学であり、お世辞にも一般的な本とは言えません。しかし、軽い語り口に心地よく揺られているうち、著者の言うように、「発酵の道は、人間の道に通ず」という気になってくるから不思議です。

 間違いなく、これから新しいビジネスの種は、発酵ものから生まれてくるでしょう。そう、発酵菌が人間を使って、そうせざるを得ないようにしているに違いありません。

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


ただいま配布中発行

巻頭特集
人気が過熱するブルックリン区ウィリアムズバーグ...

   
Back Issue ~9/7/2018
Back Issue 9/14/2018~
利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント