2017/05/26発行 ジャピオン917号掲載記事

共感マーケティング

第131回 値引きはのめない

 「阪本さん、ナレッジでそういう扱いは納得いきません。私もお給料をもらって生活している身です。だからお金が有り余っているわけではないのですが、それでも二つ受講すると割引というのは違うと思います。正規の料金をお支払いさせてください」

 もう10年以上も前のことです。主宰する塾で「二つ講座を受講したら、一つ割引」という制度を取っていたら、申し込んできた人が「値引きは納得いかないので、二つとも正規料金で支払いたい」というメールが来ました。

 私はびっくりしました。マカデミアナッツを5袋買ったら一つ付いてくるように、お客さんは喜んでくれるとばかり思っていたのです。それが「ナレッジでそういう扱いは納得いきません」というのです。

 彼女にはどうやら、「自分がこれから懸命に学ぼうと思っている講座が、安っぽく見えた」のかもしれません。私は驚くと共に、学びました。彼女のような人こそ、本当のお客さんなんだと。

そんなの、客じゃない 

 仲間と飲みながら談笑していました。

 A「インディーズやってる友達のバンドがCD出したんだよ。で、オレ20枚買って、それで他の仲間が…」。するとBが「そんなの、客じゃねーじゃん」。どういうことか。

 「それって付き合いで買っただけでしょ?20枚と言っても、根拠ない枚数でしょ?そのバンドの音楽や世界観に共感したわけでも何でもないでしょ?それでバンドはうれしいだろうか」

 Bの言葉にみんな深くうなずきました。私の頭の中では、「そんなの、客じゃねーじゃん」がずっと響いていました。

 もちろん商売は、商品を買ってくれる人がお客さんです。しかし、単にお金と商品を交換してくれて、それで商人としてうれしいかというと、決してそんなことはない。この話は、「顧客とはそもそもどんな人を指すのか」という哲学的問題につながります。

共感しているのか 

 商売は、ただ単に商品とお金の交換のためにやっているのではありません。商品を通じてどんな価値を提案、提供したいのかを発信し、それに「いいね!」と共感してくれた人が買ってくれる。そして自分が共感した価値を、周囲の人に伝える。まるで自分がやっている商売であるかのように。言葉は適切ではないかもしれませんが「共犯者」になっている。あ、「共感者」がいいかもしれませんね。

 先のバンドの話に戻せば、「僕はこの音や世界観に共感し、大好きなんだ。だから応援したい!」ということであれば、バンドメンバーもうれしいでしょう。結果、仮に5枚しかCDが売れなかったとしても、義理で20枚売れるより充実した気持ちになるはずです。

 私の周囲で成長している商売は、みんなこの「共感者」が協力しています。ネコリパブリックは日本のあちこちに「○○大臣」と肩書きのついた人がいます。

 彼らはイベント(ネコ市ネコ座)の手伝いをしたり、新聞「ネコリペーパー」の編集をしたり、配布の手伝いをしたりしています。それも、ネコリパブリックの理念「2022年2月22日までに行政による殺処分をゼロにする」に共感してのことです。

 こう考えてくると、「良き顧客との出会いをしたければ、共感できる理念を持つ必要がある」と分かります。ただ単にモノがたくさん売れればそれで良し、という商売の時代は終わりました。共感が鍵であり、理念や哲学、世界観を明確に分かりやすく伝わるようにすることが重要です。

阪本啓一

今週の教訓
共感が鍵です

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

SURI COLLECTION

「日本で『ファッション』というと、『人からどう見られるか』ということに重点を置いているように思えるけれど、スリ族のそれを見ていると、ファッションは感情表現に近い。」(本文から引用)

 著者は5歳の時にテレビでマサイ族戦士を見てほれてしまい、「大きくなったらマサイの戦士になりたい」と思うようになりました。他の子供がセーラームーンや仮面ライダーになりたい、と言っているのと同じ感覚で、自分が大きくなったらいつか肌の色を白・黒・黄から選べるんだと。ところが10歳のある日、親から「あなたはアフリカ人にはなれない」と冷たく言われ、人生初の挫折を味わいます。

 10数年後、単身アフリカへ渡り、裸族と一緒に裸になったことから現地人に受け入れられたそうです。「脱ぐカメラマン」としてメディアにも取り上げられるようになりました。「かわいそうな・気の毒なアフリカ」という偏った見方しかされないのを残念に思い、「楽しい・明るいアフリカ」を写真で伝えようと活動しています。

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