2017/05/19発行 ジャピオン916号掲載記事

共感マーケティング

第130回 一人を大事にする

 「たった一人を確実に振り向かせると、100万人に届く」。私の書いた本のタイトルにしたように、私が提唱しているフォーカス・マーケティングは「広く、浅く」ではなく、「狭く、深く」一人の顧客に刺さることが結果として広がりを見せる、という考え方です。

 一人の後ろには100人います。100×100×100、つまり三人にプラスの口コミをされたら、100万人に届く計算です。一人に届かないのに、多数に届くものではありません。まずは一人の濃いファンを作りましょう。今日はその逆も成立するという話。一人を「アンチ」にしてしまったら、100万人を敵に回してしまいます。

早朝から行列のカフェ
人気が出てカン違い?
 

 私は運動不足解消のため徒歩通勤しています。その途中にある、橋の中ほどまで行くと、対岸にテラスの突き出たカフェが見えます。早朝7時開店なのですが、開店前から行列ができる人気店。

 商売人としてはそこまでの繁盛の秘訣が気になるもの。主宰する勉強会の懇親会場にいいなと思い、予約をするため店に入り、スタッフに希望の日時と人数を伝えました。彼女はメモしていましたが、最後に「すみません、今、担当の者がいないので、後でご連絡させていただいてよろしいでしょうか」。もちろんオッケーなので、携帯番号を残しました。

 私の仕事スタイルは、原稿を書いているか、コンサルティングをしているか、セミナーで講師をしているか、読書をしているか、考えているか…このいずれかなので、電話は好みません。思考が中断されるからです。それでもその日はカフェから電話が掛かってくるので、携帯電話を肌身離さず持っていました。

 「いつ電話がかかってくるのかわからない」。ストレスに耐え切れず、午後2時ごろ、こちらから電話したところ、「まだ担当者が出て来ていないので、夕方ごろになりますが、それでもよろしいでしょうか」。もちろんオッケー、待ちました。待ちました。待ちました。結局その日、折り返しの電話が掛かってくることはありませんでした。

 「あ。カン違いしちゃったかな」と思いました。人気の飲食店によくあるのですが、雑誌やテレビに取り上げられ、お客さんも朝から行列。すると、飲食店に限らず、商売全てに言える真実をつい忘れてしまいます。

 それは「諸行無常、全ては流れ、変化し続ける。現在の繁栄も永遠ではない」という真実です。今の繁盛が永遠に続くものとカン違いしてしまうのです。

 「予約?20人?めんどくせーなー。今ちょっと忙しいから、後にしよう」

一人おろそかで
100人失う
 

 私はその日の午後、別の店に予約を入れています。くだんのカフェにはもう行くことはないでしょう。ちなみにカフェから折り返し電話があったのは、翌日の夜でした。電話には出ませんでした。

 顧客を一人失いました。カフェは「たった一人くらい」という思いがあるはずです。しかし、たった一人を敵に回せば、その後ろに100人います。さらに100人、さらに100人。3回マイナスの口コミをされたらあっという間に100万人を失います。

 「目の前のお客さんをいつ失うか分からない」「行列なんて、あっという間に消える」「全ては変化する」。これは、日々肝に銘じておきたい真実です。

 一人を、大事にしましょう。あなたの商売を支えてくれるのも一人、いざというときに救ってくれるのも一人なのです。

阪本啓一

今週の教訓
全ては変化します

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

流されるな、流れろ!

「巧みであるより鈍くあれ。」(本文から引用)

 荘子を現代の働く人向けにかみ砕いて解説する一冊。「がんばる」「役に立つ」「才能を伸ばす」「やる気満々」…という、現代ビジネス社会では「良いこと」や「常識」とされている指標が、ストレスの元凶になっていることを教えてくれます。

 著者は現役の編集者。週末を利用して書いた由ですが、ときどき彼のホンネが垣間見られます。彼も悩みながら働いているんだなあ、と共感します。これが現役引退して悠々自適な老人の書いたものなら「そりゃ、好きなこと、言えるわな」とシラけてしまいますが、本書の一番の共感ポイントは、著者の立ち位置かもしれません。

 私は知識を増やすことが善であると疑うことなく生きてきましたが、どうも、違うようです。かえって自分を窮屈に縛ってしまっているのかもしれません。

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