2017/04/28発行 ジャピオン913号掲載記事

共感マーケティング

第127回 熱

 某大手消費財メーカー担当者、来週からパキスタンに出張するとのこと。説明してくれるのですが、要領を得ません。分かるんですよ、日本語だから、何を言っているのか。でも、理解できない。

 要するに、製品がパキスタン人に受け入れられるかどうかの調査をすると言っているのですが、あまりにテクニックに走り過ぎている感が強い。あれだこれだと飾り付けて味がよく分からない料理より、母親が心を込めて握った一つのおにぎりの方がよほどおいしかったりする、そんなイメージを持ちました。

 現代のビジネスパーソンは理論をアタマにいっぱい詰め込み、マーケティング道具も、やれCRMだ、何だとそろえ過ぎて、本質を見失いがちです。パキスタン人の数人に製品を実際に使ってもらい、率直な感想を述べてもらった方が100倍生きた情報を得られます。ビジネス書を書いている私が言うのもおかしな話ですが、経営理論などはあくまで飾りに過ぎず、本質などではない。周囲の商売上手な人たちを見ていると、「理論を現場に落とし込み」「顧客の声に真剣に耳を傾け」ている人など、一人もいません(笑) では、彼らはどうしているのか。

仕事への熱 

 自分のやりたいことを、夢中になって、没頭してやっている。それだけです。

創業わずか2年でビッグブランドに育ったネコリパブリック。創業者の河瀬麻花さんはただ猫が好きで仕方ない。その熱が周囲を巻き込み、人を動かし、ついにはネスレとコラボレーションするようになっています。大手アパレルともプロジェクトが始まると聞いています。資金調達はクラウドファンディング。これも彼女の熱がSNSを通じて感染するからこそです。

私はネコリパを進化系ビジネスと呼んでいますが、理論の実践が優れているなどという分析はあくまで後付け、大事なのは熱です。

チーズのために 

 ベトナム・ホーチミンの「Pizza4P’s」は、益子陽介さん創業、3カ月先まで予約の取れない超人気店です。ピザにはチーズが不可欠ですが、良質のモッツアレラチーズを安価に入手するのが困難だった。ベトナムにはメーカーも職人もいないのです。イタリアから輸入すると原価が大きくなり現実的ではない。

 ならば自分で作るしかないとユーチューブでモッツアレラチーズの作り方を研究しました。当初は牛乳を購入していたのですが、現在はダラット高原にある牧場で飼っている牛の牛乳を使って作っています。私はピザが好きでよく食べるのですが、ホーチミンの「Pizza4P’s」で食べたピザのおいしさは格別でした。

 これも益子さんの「釜で焼いたおいしいピザを一人でも多くの人に味わってもらいたい!」という熱が出発です。「チーズがないから諦める」ではなく、「牛を飼う」という発想。熱がないと出てきません。

ここまでハマる? 

 芝崎みゆきさんの「古代マヤ・アステカ不可思議大全」(草思社)を開くと、作品に対する圧倒的な熱量に驚きます。

 中米メソアメリカの古代に栄えたマヤ、アステカ、タラスコ、テオティワカン、オルメカ…などの文明を絵と文で描いているのですが、全て手描きなのですから驚き!しかも文献を読み尽くし、自分で現地に足を運び、調べて調べて調べ尽くした結果生み出された産物なのです。

 紙から彼女の熱量がひしひしと伝わってきて、読むだけで自分が現地に行っているかのような気分になれます。やはり、人を動かすのは熱なのです。

阪本啓一

今週の教訓
人を動かすのは論理ではなく、熱

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

「李香蘭」を生きて

「どれひとつとっても自ら選んだ道ではない。偶然と『戦争の時代』という衣服をまとった運命に手繰り寄せられ、気づいたときには母国中国と祖国日本がせめぎ合う現場のただ中にいて、その火花を全身に浴びていた。」(本文から引用)

 ニューヨーク市民にもおなじみのイサム・ノグチ。著者は彼と結婚していたことがあります(1951〜55年)。ノグチも日本人の父とアメリカ人の母の間に生まれ、太平洋戦争を体験し、「自分が自分であること」について思い悩んだはずです。中空の作品エナジー・ヴォイドは「自分のアイデンティティーはどこにあるのか、空っぽなのではないか」という思いを表現したのではないかと考えています。日本人でありながら、満州で生まれ、李香蘭という名で中国人として女優となった著者と通じるアイデンティティー・クライシスを感じます。

 本書を読むと、人は、好むと好まざるに関わらず、不可抗力な運命に導かれて生きるのだと痛感します。大きな流れというものが人生にはある、人の悩みや苦悩は必要あってのことだと。

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