2017/04/21発行 ジャピオン912号掲載記事

共感マーケティング

第126回 人はなぜ買うか

 ビジネスチャンスを見つける方法は、「誰かの凹(ぼこ)を埋める」発想を持つことです。言い換えれば「購買動機」、買う理由ですね。深掘りすると四つの漢字で表現できます。「不」「楽」「時」「金」、合わせて「不楽時金(ふらくじきん)」。

不楽時金—「不」 

 不満・不便・不安。不満「もっとこうならいいのに」、「不便」こうすれば便利になるのに、「不安」もしこうなったらどうしよう。

 Uberはタクシー利用者の不満を解消しました。クラウドサービスはパソコンやスマートフォンなどの機器を問わず、いつでもどこでも自分の資料にアクセスできる不便の解消を提供しています。保険は「万が一」の事態への不安が購買動機です。

 「変身」「審判」などの不条理作品で有名なフランツ・カフカは二足のわらじ作家。第一次世界大戦前は、ボヘミアとモラビア(当時オーストリア領のチェコ共和国)で労災補償関係を扱う半官半民の労働者傷害保険協会社員でした。事故による保険金支払いを削減するため、カフカは安全ヘルメットを発明しました。この発明のおかげで、チェコの製鉄所の年間労災死亡者が初めて1000人当たり25人を割りました(1912年、カフカは安全ヘルメットの発明に対し、米国の安全協会からゴールドメダルを授与されています)。

不楽時金—「楽」 

 楽しくなる、楽になる。テーマパークや映画、演劇などは、楽しくなる体験を提供します。電動自転車は坂道を上るのを楽にします。マッサージなどのリラクゼーションサロンは心身共に楽になる価値が商品です。アマゾンは、お客さんが「買いに行く」ことなく、自宅や職場に「何でも届ける」価値で成長しています。「届ける」はデジタルなソフトウエアにまで広がり、電子書籍をはじめ、手元のスマホやタブレット、自宅テレビに、書籍、映画、ドラマを届けてくれます。楽です。

不楽時金—「時」 

 時間を速くまたは早くする。特急料金は目的地到着までの時間を速くしてくれることへの対価です。ホテルのアーリーチェックインは規定時間より早めに入室できるサービスです。カップヌードルは、たった3分でインスタントラーメンが食べられる、時短が価値として斬新でした。ついでに言えば、容器がそのまま調理器具、食器、そして配送時の緩衝材にもなるという画期的な発明です。

 宅配便は早く届けることに競争の焦点を当てていましたが、現在、日本はこの価値の曲がり角に来ています。再配達が増え、ドライバーの過重労働につながるため、見直しがなされています。先述のように「楽」を提供してくれるアマゾンをはじめ、ネットショップの戦略も書き換えを迫られることでしょう。

不楽時金—「金」 

  お金が儲かる、またはコストが下がる。

 金融商品はまさにお金を増やすことが価値です。あるいは、機械化はそれを使うことによって生産効率が上がる、つまりコストが下がる、という価値を提供します。

 さて、自社の提供するサービスは誰の・どんな凹を埋めているのでしょう? どんなビジネスでも「〜したい」から始まります。「オレの作るうまいカレーを食べてもらいたい!」というやつですね。同時に考えなければならないのは、「そのカレーは、誰の凹を埋めるのだろう?そしてそれはなぜ?」という問いです。この二つがぴったり合わさったとき、ビジネスが健康的に動き始めます。

阪本啓一

今週の教訓
不楽時金(ふらくじきん)と覚えましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

ミノタウロスの皿

「有史以来五千年、食べる者 食べられる者 身分について疑問をもたれた例はかつてなかった。大きな視点で見ていただきたい。食物連鎖の一環にすぎんのですよ。ウスは草を食いズン類はウスを食い 死ねば土にかえって草をそだてる。うらみっこなしでしょうが。」(本文から引用)

 ドラえもん、パーマン、オバQなどのほんわかした作風の藤子・F・不二雄ですが、実はブラックで不条理な大人向けの作品も残しています。表題作品はこんな話です。

 漂着した星では牛と人間の立場が入れ替わっていて、そこで恋した女性が祭典の祝祭で大皿に載せられる「栄誉」に浴します。主人公は何とかして彼女と周囲を説得しようと試みますが、価値観が逆転したこの星ではまるで通じない。彼女は喜々として大皿料理になってしまい…。

 この他、大人版オバQ。子供時代あんなに楽しかったのに、大人になると結婚や仕事に縛られる。やはり、オバQのあの楽しさは一回限りの、子供時代だけのものだったのか…。

 藤子・F・不二雄は時間の魔術師。ほろ苦い人生の後味を楽しみましょう。

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