2017/03/10発行 ジャピオン906号掲載記事

共感マーケティング

第121回 「大学」に学ぶブランド作り

 古典「大学」は、2500年前、孔子門下の曾子(そうし)とその弟子たちがまとめたとされています(諸説あります)。私は経営者向けの塾の、読書会用テキストに使っています。理由は、ブランド作りに役立つからです。

 「大学」は音楽でいうところのサビアタマ。ビートルズの楽曲「シー・ラブズ・ユー」のような、サビを頭に置く構造です。「明徳(めいとく)を明らかにする」「民に親しむ」「至善(しぜん)にとどまる」この三つが同書のテーマで、冒頭に出てきます。

明徳=提供する価値 

 「明徳を明らかにする」明徳とはブランドの提供価値です。ブランド作りで大事なのは、製品・サービスで定義するのではなく、「提供する価値」で考えること。 

 例えば「ダイソン」ブランドは「空気の流れで生活を便利にする」。その先に掃除機や扇風機があります。

 皆さんの商品やお店を価値で考えてみましょう。「うちはイタリアンレストランです」ではなく、「仕事終わりに、カジュアルにワインとピザを仲間とワイワイ楽しむ時間を提供する」とした方が戦略を立てやすくなります。

民=顧客と社員 

 「民に親しむ」、民には2種類あります。第一に、顧客。顧客に親しむというのは、顧客とのタッチポイントを洗い出し、全てに共感をもらえるような設計になっているかどうかチェックする。顧客との関係性の耕し方に改善点はないだろうか、と見直す…、無限にあるはずです。

 第二に、社員。社員との親しみ方というのも一通りではありません。例えば、労働環境を改善する、意見をフィードバックする場を用意する、モチベーションを高めるためのイベントを企画する、研修など学習機会を提供する…、こちらも顧客に親しむ方法同様、無限にあるでしょう。

至善=明確な線引き 

 「至善にとどまる」。通常、善悪は相対です。自分にとって都合が良ければ善、悪ければ悪、とするのが人間。それに対して、至善というのは絶対に変わらない善のことです。これをブランド論で見ると、「ここまではやる、ここから先はやらない、という線引きが明確であること」です。

 とんがったブランドは「やらないこと」が明確です。元気な頃のアップルは、何と言われようと断固としてわが道を歩いていました。アップルファンは一方でそんな姿勢に「困ったものだ」と苦笑いしつつ、他方で「そんなアップルにほれているんだ」とラブコールしていたものです。その究極が、iPhoneでした。丸いボタンが一つあるだけですが、通話ができたり、メールが打てたり、ブラウザでインターネットができたりする。それまでの携帯電話ではできなかったことができるようになった。そればかりでなく、人類が乗物に乗るスタイル、歩くスタイルまで変えてしまいました。スティーブ・ジョブズは「携帯電話の再発明」と言っていましたが、携帯電話どころか、ライフスタイルそのものを変革したのですからすごい起爆力です。

 「物に本末あり。事に終始あり」。優先順位が見えていますか、ということです。あれもこれもやる、というのは、結局何もやらないのと同じ。強いブランドは、優先順位が明確です。

 「日に新た日日に新たに、また日に新たならん」。いつもサムシング・ニュー。常に更新し続ける。例えば、虎屋のような老舗ブランドはただ長く続いていることがすごいのではなく、時代や消費者の嗜好(しこう)の変化に併走する力がすごいのです。つまり、変化の達人です。

阪本啓一

今週の教訓
いつもサムシング・ニュー!

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

「大学」を味読する 己を修め人を治める道

「この『大学』というのは、『小学』の上に立って、世の中がどうしたら良くなるか、あるいは人間としてどうすれば人に良い影響を及ぼすことができるかということを説きだしているものです。」(本文から引用)

 2009年に読み始めて以来、何度読み返したことか。クライアントのリーダー研修、経営塾の読書会などでも活用しています。

 幼いころから論語を始め四書五経(ししょごきょう)を読み解いてきた伊與田先生なればこその解説。

 非常に分かりやすく、すっと入ってきます。明徳を明らかにする、民に親しむ、至善にとどまる、の三綱領(さんこうりょう)は、クライアントや塾生社内で共通言語となり、経営の一本の柱となっているようです。

 家でもそうですが、大黒柱の存在はとても大事です。その大事な柱に大学はおすすめです。2500年も残る書物の持つパワーは、さすがです。もちろん、私自身の日々の行動指針にもなっています。大人(たいじん)とは、周囲に良き影響を及ぼす人。その大人になるための書が「大学」なのです。

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