2017/02/03発行 ジャピオン901号掲載記事

共感マーケティング

第116回 ビルド&スクラップの発想

 「スクラップ・アンド・ビルド」。いったん壊して、作る。威勢のいい響きで、「男らしい」気分がしますが、おすすめしません。

 新製品のローンチ、会社からの独立、新規事業立ち上げ…すべて「新しく何かを始める」とき、私は既にあるものをやめたり廃棄してからではなく、残したまま、新しいものを始めます。そして、新しいものが軌道に乗ってから、古いものが不要な場合のみ、廃棄します。

 つまり、ビルド・アンド・スクラップの発想なのです。理由は、リスクをできるだけ減らすためです。ちなみにリスクとは、古代アラビア語が発祥で、「明日の糧」という意味だそうです。

独立前に「複業」
試運転期間設ける
 

 
 私自身、会社員最後の3年間は、副業ならぬ「複業」と称して、ダブルジョブをしていました。「複」の文字には「どちらも本業」という思いを込めました。平日は会社員としての仕事、週末はビジネススクールの講師やコンサルティング、翻訳、執筆の仕事を。メールマガジンは1995年から書いていますが、当初は週刊、毎週土曜日に執筆し配信していました。最後の1年は、自宅と会社のちょうど中間地点に部屋を借り、名刺も用意しました。

 そして1999年のニューヨークへの旅行でたまたま出会った「パーミション・マーケティング」原書を翻訳し、ベストセラーになって、独立の手応えをつかんだ上で、会社を退社したのです。銀行口座も新しく開設し、複業で稼いだお金はそちらに入れるようにしていました。いわば「試運転期間」を設けるわけです。

確実に売れる
場所と時間確保
 
 
 塾生K君が車を使って料理をデリバリーするビジネスを考えています。K君周囲の20代料理人の中で、「パーティーシェフ」のような、出先で料理したり、あるいは半分調理し依頼先で最終仕上げをするケータリングビジネスは結構多く、レッドオーシャンのようです。ただ、みんな若いので車を持っていないため、料理を電車やタクシーで運ぶ。これはちょっと大変だしクールじゃないので、車を買うつもりだと言います。そういえば、葉山に住んでいた頃、釜を積んだキャンピングカーをスーパーマーケット駐車場に停めて、一枚ワンコイン(500円)で焼き立てピザを販売しているのを見ました。移動式キッチンです。その事例を思い出し、紹介すると、乗り出してきました。ここで私はビルド・アンド・スクラップの発想で、次のようにアドバイスしました。

 「車を買う前に、確実に売れる場所と時間を確保しておきましょう。キッチンカーは、『あなたのもとにできたての料理を届けます』という『フレッシュ&ウオーム・デリバリー』が『蒸留価値』です。価値は鮮度と温度。では、鮮度や温度ある料理が食べたいけどガマンしている人たちのいる場所と時間はどこか?あります。夜の救命救急病院(大病院の救急センター)で働くナースやドクター、事務スタッフ向け(患者向けではない)。夜の映画撮影現場。夜の道路工事現場。そういうところの責任者に会いに行って、『鮮度&温度デリバリーを今度やるんですけど、お客さんになってくれますか?』とお願いしましょう。いつ来るか分からないお客さんを求めて街中をうろうろするのではなく、確実に売り上げが上がるルートを確保してから投資(車の購入)するのが賢明です」

 この場合は、何かをスクラップするわけではありませんが、経営はギャンブルではありません。確実性が担保されるのなら、大きな投資(車購入)の前にリスクをできるだけ減らしておく。これが商才です。

阪本啓一

今週の教訓
作ってから、壊しましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

あさえがお

「お箸の扱いは、テレビに映っている」

 著者はあのカトパン。2016年フジテレビから独立したのを機に、これまで自分を支えてくれた33の言葉と折々の気持ちをまとめた本です。

 「お箸の扱いは、テレビに映っている」は、アナウンス室でお昼ごはんを食べているときに電話が鳴り、焦ってお箸を丼の中に置いたまま出てしまったときに先輩からしかられました。「加藤、何やってるんだ。そういうお箸の扱いとか、行儀の悪さはいくら隠していたってテレビに映るんだぞ!」。これは商売の世界でも同じです。

 特に接客業では、普段の生活習慣が自然と出てしまうもの。私が世界一素晴らしいと思う志摩観光ホテルの良さは、スタッフ全員が「ちゃんと生活しているんだな」と分かるからなのだと、このエピソードで思い出しました。

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