2017/01/27発行 ジャピオン900号掲載記事

共感マーケティング

第115回 先輩の知恵を生かす

 組織内に、「先輩の知恵を生かす」仕組みはありますか?

 旭化成で建材営業していた頃、先輩の知恵が教えてくれるティップで、かなり助かりました。事例でお話します。

▽見積書

 担当していたALCパネル「ヘーベル」屋根板の見積りに際し、販売店F部長がアドバイスしてくれました。当時工事で使う用水は建設会社から現場で無償支給いただく慣例になっていました。

 F部長は、「無償支給はいい。問題は現場のどこで支給して欲しいのかを見積書に明記しておきなさい」と言います。首をかしげる私に、「施工部位は屋根でしょ?発電所の屋根は地上何メートルある?」と問い掛けました。図面で確認すると、地上15メートル。一般建築物なら5階建てクラスの高さです。

 「もし地上で支給されたらどうするよ。15メートル上の屋根まで、自分たちで水を上げなきゃいけない。確かに水は無償支給してくれるだろう。でも、屋根まで上げる費用、こっちが負担することになるよ。つまり、見積書には、『施工場所にて無償支給願います』と明記しておくんだ」

▽相手が黙ったときはイエスと限らない

 B部長からは、「人を説得する際、相手が黙っているとき、イエスの意思表示ではないからね。むしろ、従いたくない思いが強いときほど、人は黙っているもんなんだ」と教えられました。

▽企画書と見積書の順番

 「企画書に見積書をくっつけてはいけない。お客さんが一番気にするのは、金額。見積書が添付されていたら、しかもそれが企画書より先に見えるようになっていたら、お客さんはまず金額を確かめたくなって、こっちが企画の説明をしていても耳に入らない」

 これは商社役員のアドバイスですが、実はその後、独立してからこれを忘れ、失敗したことがあります。クライアントに提出する見積書と企画書、本来は別にとじて、先に企画を説明し、先方から問われておもむろに見積書を出すべきところを、一緒にとじ、しかも先に見積書をくっつけてしまいました。

 先方担当者はどれどれ、と表紙を開いて見積金額を一瞥(べつ)、まるでマンガのように「ヒュ––––ン」と力が抜け、その後の企画説明は入っていきませんでした。

▽布団は自分でたため

 入社1年目の社内旅行にて、社長いわく、「明日朝、自分が寝た布団は自分でシーツをはがしてたたみ、一箇所にまとめておきなさい。宿の人は、『ああ、こういう社員のいる会社なら安心だ。何かあったらここをひいきにしよう』と思ってくれるから」。

 これはいまでも実行しています。先般、黒川温泉の宿で、スタッフの人に「ホントはこういうことを客がやってると、後の仕事の段取りが狂って、やりにくいんじゃないですか?」と聞いてみたら、「とんでもない! とても助かります!」と喜んでくれていました。仕事はバトン。気持ちよくバトンを渡したいですね。

▽会って話せ

 電話で取引先とつい議論になってしまうことがありました。長くなる。電話を切ったあと、部長に席へ呼び出されました。

 「何の話をしてた?」

 「〇〇社の□□さんと価格の件です。値切ってくるから、そうもいかないと。つい議論になってしまいました」

 「議論は構わない。さっきから聞いていたらゆうに30分は話していたぞ。顔が見えないからそういうことになる。会いに行け。顔を見ながら話したら、どんな結論になろうと、お互いの納得が違う」

 独立後も、たびたび思い出すティップ。やはり先輩の知恵は、ネットでは出会えない価値を持っています。

阪本啓一

今週の教訓
ネットには出てこない知恵です

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

クラウドガール

「杏の思考はそれこそスナップチャットと同じように、今ある板にしかない。そして次の瞬間には消えてしまう。そしてまた、新しい板に言葉が書き込まれ、読んだ端から消えていく。」(本文から引用)

 著者、金原ひとみは1983年生まれ、娘二人とフランス在住。彼女の圧倒的な表現力にチリチリと前頭葉を刺激されながら、本を置く能わざる展開で一気呵成(かせい)に読み終わりました。

 刹那にリアルを感じ、非連続思考をする美しい妹・杏と、規律こそが生活の軸になっている聡明な姉・理有。二人の視点を交互に描きながら、現代日本の「リアル」を描きます。そのリアルとは、家族のリアルとは何なのか。妻の、夫の、恋人の、姉の、妹のリアルは何を指して言うのか。

 人が二人いて、二人の間で何か共有できるアイコンがあったら、そこに基準が生まれる。その基準探しこそがリアルなのかもしれません。タイトルに含まれる「クラウド」。リアルと仮想の間をたゆたう主人公たちをずばり、表現しています。

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