2017/01/13発行 ジャピオン898号掲載記事

共感マーケティング

第113回 カスタマー・ジャーニー

 カスタマー・ジャーニー(顧客の旅)とは、顧客経験を最初から最後まで図式化する作業です。利点は、顧客とサービスやブランドがどこで接点を持つかが明らかになること。この「タッチポイント」の一つ一つが、顧客に価値を提供する機会になるのです。例えば、JR新幹線新大阪駅改札内の電光掲示板は位置がおかしいことが挙げられます。改札に入る前は全体がよく見えるのですが、いざ改札に入ってからは案内が見にくく、多くの乗客が首をねじって自分の乗る電車の発着番線を探しています。多くの乗客は自動改札を通過してから「はて、自分は何番線に向かえばいいのか」ということに気付くのです。改札前ではなく。

顧客接点を図式化する

 今や、多くのホテルが顧客とのタッチポイントを自ら台無しにしています。まずは「予約」です。経費削減のため、ウェブサイトからの予約が優先になっています。また、集客力を高めるために、どこかの旅サイトに外部委託しています。

 しかし、予約とは本来ロマンあふれる大事なタッチポイントであるはず。電話で気持ちのよい接客が受けられたら、そこから既に旅は始まります。ホテルへの親しみも生まれようというもの。3カ月前の予約であれば3カ月間、顧客(と、旅のお連れさま)の心の中で期待感が膨らみ、ホテルブランドへの愛が育まれるのです。

 また、「チェックイン、チェックアウト」はホテル体験の最重要点です。にもかかわらず、日本の多くのビジネスホテルは機械化してしまい、味気ないことこの上ありません。

サービスの目的を転換

 世界的なデザイン会社IDEOがアムトラックのカスタマー・ジャーニーを探ったケースをご紹介します。研究チームは、他の乗客に混じって何日もアムトラックの列車に乗り、旅のプロセス全体を洗い出すカスタマー・ジャーニーを図式化しました。簡単にいうと、「アムトラックの旅はどのようなステップでできているのか」を分析するのです。  

 これにより、「駅に向かう」「駐車場を探す」「切符を買う」「ホームを探す」といった10のステップで成り立っていることが分かりました。ステップ全体を見直してみると、驚くことに、乗客は8番目のステップになってようやく列車の座席に着くということでした。言い換えるなら、旅の経験のほとんどは、列車の座席がどうのこうのとは全く関係がなかったのです。つまり、座席デザインがいいとか悪いとか以前の話でした。

 そこで、研究チームは、全てのステップを、「乗客の楽しい経験を生み出すための『交流』を創造するもの」と捉え直し、できることはないかを探ったのでした。

 那覇にあるイタリアンと炭火焼きレストラン「torico(トリコ)」もカスタマー・ジャーニーを実施しました。「電話予約」「店に向かう」「駐車場を探す」「店に着いて、予約名を言う」「席に案内される」「おしぼりとメニューが渡され、説明を受ける」「ドリンク注文」「フード注文」「おかわり選ぶ」「スタッフに声掛けする」「注文する」「スタッフに声掛けする」「食べ終わる」「会計を頼む」「おつりを待つ」「運転代行を呼んでもらう」「帰る」と、17ステップありました。ただ、全17ステップのうち、実際にお客さんが食事しているのは、わずか5ステップのみだということが明らかになったのです。

 そこでトリコスタッフは17ステップ全てを「楽しい体験交流になるように」と意識することにしました。「食事を食べに来る」から、「楽しく時間を過ごす」への転換。トリコスタッフはできることはまだまだあると腕まくりしています。

阪本啓一

今週の教訓
売っているのは、全体体験です

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

ネコリパブリック式 楽しい猫助け

「今、自分たちがネコリパという仕事にかかわることができること。そして、社会を変えるためのひとつのピースであることは、私たちの誇りです。」(本文から引用) (本文から引用)

 SNSの浸透でシェアが当たり前のシェアリングエコノミーが生まれました。

 著者はその申し子。クラウドファンディングで資金1800万円を集め、世界的食品会社ネスレとコラボし、イベントには著名な女優が手弁当で応援に駆け付けます。これもすべて「2022年2月2日(ネコニャンニャンニャンの日)までに行政によるネコの殺処分をゼロにする!」というビジョンが社会性を帯びていて、思わずシェアしたくなる共感を呼ぶものだから。

 飾らず、等身大で書かれた本書を読めば、シェアリングエコノミーで生まれた新型遺伝子のブランドが形成される流れと、一人の女性経営者が時に転びながらも、仲間たちと楽しく道を切り開いていく姿を楽しむことができます。人生の新しいドアを開きたい人には、とても参考になる一冊。

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