2016/12/23発行 ジャピオン896号掲載記事

共感マーケティング

第111回 物体移動を超えて

モノの物体移動では
アマゾンに勝てない

 スマートフォンのアマゾンアプリの検索窓にあるカメラマークをタップし、冷蔵庫の中にあるヨーグルトにカメラを向けると、画面上に光の点が商品形状に沿って集まり、ものの数秒で「明治ブルガリアヨーグルト」と認識することができます。

 このように、アマゾンで扱っている商品なら、ビールでもボールペンでも本でも時計でも、スマホをかざすだけで対象商品を購入することができます。

 また今週から日本でのサービスが始まった「アマゾンダッシュ」を使えば瞬時に水、炭酸水、洗剤などの「繰り返し買うもの」を注文することができます。

 「アマゾンゴー」(www.amazon.com/b?node=16008589011)は、リアルのスーパーマーケットで、入店時に自分のスマホをゲートにタッチさせて本人認証をします。後は自分が欲しい物を商品カゴではなく、自分のカバンに直接入れていくだけ。レジに並ぶ必要がなく、もちろん、現金での支払いも不要。買い終わったら(商品を選んで、自分のカバンに入れ終わったら)そのまま店を出てオッケー。自動で決済が完了するシステムです。

 つまり、ネットであれリアルであれ、モノの物体移動「だけ」でアマゾンと同じ土俵に乗るのは愚策です。ではどうすればいいのでしょうか。

印鑑売るのでなく
前向きな一歩後押し

 福井県鯖江市で代々印鑑を製造販売している小林大伸堂(www.kaiunya.jp)は創業123年の老舗です。五代目小林稔明さんは、世の中の流れが印鑑を不要としつつあることに「どうしたものか」と考えました。

 さすがの印鑑社会日本も、銀行でさえ印鑑不要を打ち出すところも出始めたのです。「このままではうちの商材が世の中から不要になってしまう」と、小林さんはブログに書いています(www.kaiunya.jp/sirusi/all/syokunin/syokuninn5s68)。

 「『何の仕事をしてますか? 』と聞かれた際に、これまでは、『印鑑をつくるのが仕事です』と返答することが多かったのですが、これは顧客中心ではない(印鑑は商品でしかない)と気づき…」(ブログから引用)

 製品志向から顧客志向へと視点を変えたからこその気づき、マーケティング発想です。考えた結果、小林さんは「前向きな一歩を後押しすることが僕たちの仕事」と自分の仕事を再定義しました。

 「例えば、『事業の成功の後押し』、『プロポーズ成功の後押し』、『社会にでる息子の自立の後押し』、『結婚で嫁ぐ娘の幸せの後押し』などなど…それぞれのシーンで、それぞれの人たちの想いを聞き、その『想い=運気』を名前に込めることで、その人にしかない「印(しるし)が出来上がります。これからも誇りをもって『感動をクリエイトできる職人』を生きたいと思います」(ブログから引用)

 小林さんのこのマーケティング発想を読んで、次のフレーズが思い浮かびました。

 「ダサい商売は今も物体移動。イケてる商売は顧客と心を結び合う」

 顧客は商品(モノやサービス)を買うのではなく、商品が生み出す「楽しい解決」に対して代金を支払います。そして、一度楽しさを体験したら、また次も、と願うのが自然です。そのとき、顧客とブランドの間に心が通い合うのです。

 自社の商品がどんな楽しい解決を提供しているのか、それは他では手に入らないものか、について考えてみましょう。ブランドは、他社の「やらないこと」をすることで旗が立ちます。物体移動を超えましょう。

阪本啓一

今週の教訓
モノ売りから卒業しましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

小川未明童話集

「こんな、人間並でない自分をも、よく育てて、かわいがってくだすったご恩を忘れてはならない」 (本文から引用)

 有名な「赤いろうそくと人魚」が収められています。他にも「月夜と眼鏡」「野ばら」など小川未明の透明な文章と、意外な展開に時を忘れます。

 時に幻想的、時に残酷。童話といえば、夢を与えてくれるものばかりと思っていたのですが、そうではなく、人生や人間の不可解さ、いやらしさを思い知らされます。旅に持っていくと、自分が今いる場所の色が変わる、そんな不思議な力をもった作品集です。そしてそれが良質な文学の力なのでしょう。

 それにしても「赤いろうそくと人魚」、現代資本主義を先取りして批判している気がします。大正時代(1921年、大正10年)の作品なのに。「売れればいいってもんじゃないだろう。人間にとって何が大切なのか、そこを忘れたらダメでしょう」という。

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