2016/11/25発行 ジャピオン892号掲載記事

共感マーケティング

第107回 ボール球を拾え

商売における
ボール球とは何か

 お客さんとのやりとりの中で、「ボール球」というものがあります。例を挙げます。あなたは自慢のラーメンを一人でも多くの人に楽しんでもらいたくて、ラーメン店を開店しました。ところが、お客さんが好んで注文するのはギョーザばかり。この場合のラーメンはストライク、ギョーザがボールです。

 こういうとき、あなたはどうしますか?
①初志貫徹、ひたすらおいしいラーメン作りに精進する。
②ギョーザが売れているんだから、ギョーザ専門店にチェンジする。

 たいていの人は、真面目なので、①の初志貫徹をするはずです。しかし、「うちのラーメンはおいしい」というのは、大変申し訳ないのですが、仮説に過ぎません。

 では、このケースの事実は何か。お客さんが好んで注文するギョーザに人気がある、ということです。私は、「②ギョーザが売れているんだから、ギョーザ専門店にチェンジする」をおすすめします。

「知る」の3ゾーン
そこに商売の可能性

 「知る」ことには、次の三つのゾーンがあります。

 ゾーンA「私は知っていることを知っている」。
 ゾーンB「私は知らないことのあることを知っている」。
 ゾーンC「私は何を知らないのか知らない」。

 そして、その大きさは「A>B>C」のはずです。

 そう、世界には「知らないことすら知らない」ことのほうが断然多い。だから面白いのです。だからこそ商売は可能性に満ちているのです。

 ラーメン店に話を戻すと、「うちのラーメンはおいしいから、たくさんのお客さんに支持されるはずである」というのは事実ではなく、あくまでも仮説です。希望的仮説と言ってもよいでしょう。
 前記の「知らないゾーン」でいうと、本人はゾーンAのつもりなのかもしれないけれど、実はゾーンCなのです。そして、いざ開店したらギョーザが売れた。とても売れた。これが事実となります。売上として現金が入ってきているのですから。

 つまり、「私はギョーザが売れることを知っている」はゾーンAに当たります。商売に必要なことは、当初立てた戦略はあくまで仮説に過ぎず、こだわってはいけないということ。虚心坦懐に事実と向き合う謙虚な姿勢が大事なのです。

問い合わせもらい
なかったもの記録

 リアルな店舗でも、ネットショップでも、「こういう商品はありますか」とお客さんから問い合わせをいただくことがあります。扱っている商品であれば売上になり、販売実績として記録に残ります。それはいいのです。問題は、「はい、申し訳ございません、当店では扱っておりません」の場合です。

 多くの場合、記録に残りません。気の利いた販売スタッフであればメモにして、次の仕入れ会議で報告するかもしれませんが、そういうことはほとんどないでしょう。でもこれはいかにももったいない。だってその商品があったら確実に売れていたわけですから。「買うよ」とお客さんのほうから言ってきてくれているのですから。

 「問い合わせがあったけれど、店になかったもの」リストを記録する仕組みを作りましょう。電話であれ、メールであれ、店頭であれ、すべて記録しておく。そして仕入れてみる。

 このようなボール球こそが、次の商品戦略のヒントになるのです。ボール球をコツコツ拾う。驚くほど売上が上がるかもしれませんよ。

阪本啓一

今週の教訓
記録しましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

生命の劇場

「規則に合わせて実例を探し出すのではなく、実例に合わせて規則を探し出すべきである」(本文から引用)

 本書はヤーコブ・フォン・ユクスキュル(1864-1944)没後、遺稿を整理して出版されたものです。その意味で、環世界を提唱した稀有な生物学者の知の到達点に触れる感動を味わえます。

 大学理事、宗教哲学者、画家、動物学者、生物学者の5人が環世界論と生物機械論について議論する、という架空の設定です。これが商売にどうつながるのかというと、引用した言葉の通り。実例、つまり、事実に合わせて戦略構築する必要がある。

 ただし、人間相手に人間が営むのが商売。分かることより、分からないことの方が多い。いったん立てた戦略も、あくまで仮説に過ぎず、謙虚に事実へ向き合って修正しつつ前進する姿勢が大事。高度な知的議論が生み出す興奮も、本書の読みどころです。

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