2016/11/11発行 ジャピオン890号掲載記事

共感マーケティング

第105回 環世界の更新

 人間に限らず、生物はすべて、自分を取り巻く世界にどう意味付けするかで個体だけの世界を形成しています。これを環世界と呼びます。人間の場合、多くは乳児以来、育ってきた家庭で形成されます。このため、新婚生活は環世界のチューニングから始まります。お風呂が先か、夕食が先か、朝食はパンかごはんか…。 また、国籍によっても違います。悩みを抱えたとき、日本人は胃が痛くなりますが、アメリカ人は頭痛が、フランス人は背中が痛くなります。

 業界独特の習慣も環世界のなせる技です。某通信会社では会議中携帯電話が鳴って出てもおとがめなしで驚きました。普通の声の音量で「もしもし、あ、どうもどうもお世話になります…」と始めるのです。
 さて、環世界と商売がどう結び付くかというと、商売上手な人は環世界をずっと更新し続けています。自分の凝り固まった考えを更新するわけですね。「私が考える」と思っていますが、実は自分が長年の生活や仕事を通じて世界に意味付けして形成した環世界が考えているに過ぎません。だから水がセ氏0度になったら氷になり、100度になったら蒸気になるような物理現象で世界が形成されているのではなく、あくまで主観なのです。

 ネスレは常に世界のGDPを上回る成長を遂げる超優良企業です。時価総額25・8兆円、対し日系上位5社(サントリー、明治、キリン、アサヒ、JT)が14兆2940億円と、他にも売上高、営業利益いずれの指標で見ても、群を抜いています。

 その理由は、「常に生活者のライフスタイルの環世界を更新しつづけてきた」からです。朝起きて、時間のない中でもインスタントコーヒーを作って、一杯飲んで出掛ける。会議中ボトルに入ったミネラルウオーターを飲む。糖分補給にミルクチョコレートをかじる。乳幼児に乳製品を与える。これらすべてネスレが商品化して人間のライフスタイルを更新したものです。

 では環世界を更新するにはどうすればいいのでしょう?それは「異some-thing different」に出合う機会を生かす、です。何か想定外のことに出合う、嫌な目に遭う、旅に出る、通勤路を変えてみる、食を変えてみる…「異some-thing different」ランプが点灯する体験をするのです。

 ランプが灯ったら、「新 something new」が生まれます。この夏、思いたって食べるものを真逆にしてみました。嫌いなものを努めて食べるようにし、好物を控える。例えば、発酵食品、酸っぱいもの、紅茶、魚、などを積極的に食べて、これまで好んで食べてきた揚げ物、ビール、コーヒーは極力口にしない。始めて約4カ月ですが、ものの見方・考え方も変わってきたように思います。

 あってはならないことですが、万が一、病気になったとしても、環世界の更新に役立つ、と捉えましょう。昔の人は「病を得た」という表現をしています。そうです、環世界の更新の機会を得たわけです。こうなるとすべて、自分にとって「異和感ある」出来事は環世界の更新に貢献するわけで、起こったことはすべていいことなんです。まるで宗教みたいですが違います(笑)。 

 ブランド創造とは、顧客の環世界の中に、ブランドⅩの環世界をはめ込むことです。大きなシャボン玉をイメージしてください。人間はそのシャボン玉の中にいます。そのシャボン玉の中に、小さなブランドⅩのシャボン玉が入っていく。そして、例えば「おしゃれな家具で部屋を飾りたい。しかも安く!」というニーズがあったら、かつてそのニーズを満たしてくれたためにシャボン玉が形成されているIKEAというブランドシャボン玉がクローズアップされてくるのです。

阪本啓一

今週の教訓
商売とは、ライフスタイルの
更新提案です

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

実践! 「現場営業力」強化セミナー

「自分たちは、金利勝負になったらトップバンクにかなわないことも多い。(中略)そこで、融資の話が出てくるより前に、社長とたくさん会話し、徳を積み、価値を感じてもらえるようにしている。」 (本文から引用)

 著者は世界的コンサルティング会社A・T・カーニー金融プラクティス・プリンシパル。主に地域金融機関に対する豊富なコンサルティング経験があり、本書はそれを蒸留したものです。 地方金融機関の支店長に向けて書かれた内容ですが、企業にとって金融機関は第三のお客さま(第一は買ってくれる顧客、第二は社員)。金融機関が何を考えているのかを研究するのも大事です。日本もアメリカも、大筋は同じでしょう。また、「営業」という行為に絞れば、金融機関も一般企業も同じ。商品(融資)だけではなく、関係構築がマーケティングの鍵、という指摘も100%賛成です。関係構築は時間が経てば深まり、ブランドゾーンの面積が広がる。ややもすると機能のみが表に出て、違いを出しにくい商品の場合、関係構築こそが決め手です。

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


ただいま配布中発行

巻頭特集
「ニューヨークの家賃は学区で決まる」。そうささ...

   
Back Issue 9/14/2018~
Back Issue ~9/7/2018
利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント