2016/11/04発行 ジャピオン889号掲載記事

共感マーケティング

第104回 思わぬ結果を歓迎しよう

 1960年代、ホンダはアメリカのオートバイ市場に参入するにあたり、本格的にツーリングを楽しむ濃い利用者、つまり、ハーレーダビッドソンや欧州輸入車を愛好する人たちをターゲットにする戦略を立てました。既存のオートバイにひけを取らない製品を製造し、当時の日本の決定打、つまりグローバルスタンダードからすると異常に安い人件費を生かした格安価格で販売、殴り込みをかける。輸入メーカーとして地位を確立していた欧州勢からオートバイ市場の10%のシェアを奪うのだ…。

 当時の日本は高度成長期、イケイケドンドンで、その威勢の良さが伝わる戦略です。ところがフタを開けてみたら、トホホな結果が待っていました。第一にホンダのオートバイはマッチョなハーレーと並ぶとあきらかに「弱っちい」感じがします。第二に、長時間高速で走行するとオイル漏れを起こすことがありました。長距離を高速で走るのはアメリカのツーリングでは一般的な利用法です。

ホンダの壁

 ところがホンダが当時提携していた地元アメリカのディーラーでは、ホンダ車を修理する能力がありませんでした。やむなくホンダは日本へ空輸して修理する「あり得ない」対処を。売上も微々たる中、これでは儲かるどころか、ただでさえ乏しい資金がみるみる底を尽きかけました。

 とはいえ、戦略は実行されるためにあります。真面目なホンダアメリカ社員は懸命に売り込みを続けましたが、芳しい成果は得られないままでした。

 当時、日本ではホンダ・スーパーカブと呼ばれる小型オートバイが大人気でした。何台かロサンゼルスにも持ち込まれていましたが、小型バイクがアメリカ人に受け容れられるとは到底思えませんでした。日本の狭い路地で小回りがきく配達で使うならともかく、アメリカのような広い道路、商店間に距離がある地理的条件にはそぐわないと判断されたのです。ロサンゼルス支社の資金繰りはますます苦しく、社員は辛い毎日を送っていました。

予期せぬニーズ

 とある休日、一人の社員が気分転換のためにスーパーカブに乗り、丘陵地帯に出掛け、走り回って楽しんでいました。仕事のプレッシャーから解放され、リフレッシュできた彼は、翌週末、同僚も誘い、スーパーカブで丘陵を走り回りました。これが地元のアメリカ人の目に止まり、「それはどこで買えるのか」と質問されました。売り物ではない、と答えたものの、その後も問い合わせは続きます。根負けし、日本から取り寄せて細々と販売していました。

 間もなく、シアーズのバイヤーが、スーパーカブに乗っているホンダ社員を見掛け、そのバイクをカタログ通販で扱わせて欲しいとオファーしてきました。しかしホンダとしては戦略がブレるのを恐れ、このオファーには冷ややかな対応を示しました。

 ところが背に腹は代えられない。アメリカ事業があるのは小型オートバイのおかげであることをやがて不本意ながらも認めることになったのです。戦略は転換されました。スーパーカブは大型ハーレーの4分の1の値付けがされ、従来のオートバイ愛好家ではなく、全く新しい顧客「オフロードバイカー」向けに販売されることになりました。

 また、販売拠点も、伝統的なバイクディーラーではなく、スポーツ用品店で扱うことにしました。戦略はあくまで仮説であり、固執してはいけない、「思わぬ失敗」「思わぬ成功」こそが戦略の更新を促すのです。思わぬ結果を歓迎し、「起こったことは全ていいこと」の姿勢で、柔軟に顧客に向き合いましょう。

阪本啓一

今週の教訓
起こったことはすべてオッケーです

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
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