2016/09/16発行 ジャピオン882号掲載記事

共感マーケティング

第98回 先達から学ぶ

 日本の高度成長期、ダイハツ・ミゼットという軽三輪トラックが大ヒットしました。「midget」とは、英語で小人の妖精とか、とても小さいもののことを指し、それがネーミング由来といいます。

 マーケティング・リサーチの結果、従業員10人未満の零細商店・企業ではオート三輪はほとんど使われていないことが分かりました。ところが、従業員10人未満の小規模事業者こそが、商売を円滑に営むため小口配送でオート三輪を必要としています。しかも全事業所数93%がそのような小規模事業者。オート三輪には車検免除、自動車税が安い、というメリットもあるためダイハツはこの「市場の空席」に着目し、開発に着手、ミゼットを1957(昭和32)年に発売しました。「街のヘリコプター」というキャッチコピーも効いて狙いは大当たり、大ヒットになりました。

増産のため大胆発想

 ミゼットの幌(ほろ)の製造を請け負っていたのが太陽工業。ミゼットが大ヒットしたため、増産しなければならなくなりました。ところが工場建設の原資がない。銀行から借りるにも担保がない。そこで、将来値上がりする可能性のある土地を買って、それを担保にすればいいと創業社長、能村龍太郎氏は考えました。とはいえ、どこが将来値上がりする土地なのか、誰かに聞いて分かる話でもありません。当時東海道新幹線開通の情報がありました。「新幹線の駅の周辺に土地を買えば、値段が上がるのではないか?」ここからがすごい。能村氏は、趣味でやっていた飛行機を自ら操縦して、大阪の街を空から観察しました。新幹線の駅ができるとすればどこか。ある地点を割り出し、駅になると立ち退きで新工場を建設できないので、わざと300メートル西側にずらしました。そこが現在の本社所在地です。読みはズバリ当たり、銀行は融資してくれました。

成功をうまく使う

 さて、ミゼットの大ヒットを見ながら、このブームをうまく使えないかと考える社長がいました。石橋信夫大和ハウス工業創業社長です。時は戦後のベビーブーム。家が狭く、子供部屋が欲しいというニーズがありました。そこで「ミゼットで運べる資材だけで作る子供部屋」というコンセプトを発想しました。「3時間で建設できて11万円!」というキャッチコピーも。名付けてミゼットハウス。プレハブ住宅が生まれた瞬間です。庭に子供部屋が、たった3時間で建ってしまう。しかも11万円! よく調べてみると、当時の公務員の月給が1万円なので、年収分の価格で決して安いものではないのですが、みんなに夢を与えるプライシングです。おそらく原価から出したのではなく、「3時間11万円!」というキャッチーなコンセプト先にありきだと思います。

 大和ハウス工業はもともと「いろんなモノが工場でできる時代に、建築も工業化できないものか」というビジョンを持っています。だから社名に「工業」とついているのです。工場であらかじめ建設資材を作って、現場では組み立てるだけ、という基本コンセプトはミゼットハウスの前に発売したパイプハウスのヒットで手応えをつかんでいました。パイプハウスは住宅ではなく、国鉄の線路脇に設置する資材置場などに重宝され、ヒットしたのです。工期が短く、コストも安いことが好評でした。

 ミゼットハウスは大いに売れ、大和ハウス躍進の礎になった由です。当時のテレビCMを見ると、家の前に到着したミゼットから、子供たちも資材を運ぶのを喜んで手伝っています。これは画期的なアイデアだと思います。

阪本啓一

今週の教訓
先達の物語を勉強してみましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
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阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

農で1200万円!

今、私が流行らせたいのは「それって、命的にどう?」という言葉です。 (本文より引用)

 いまの時代、右肩上がりは必ずしも幸せにつながりません。私は「適切なサイズ」とよく言いますが、まさに「スモールメリット」「売上基準金額」「いくら売れたかより、いくら残るか」など、ぴったりのフレーズが満載。著者はバーテンダー、ビジネスホテル支配人を経て、1999年知識ゼロから起農。小さなビニールハウス4棟、通常農家の10分の1の耕地面積、30アールの「日本一小さい専業農家」。借金、補助金、農薬、肥料、ロス、大農地、高額機械、宣伝費オールゼロの農業経営。自然災害をはじめ、何が起こるか分からない環境では「経営のディフェンス力」を培う必要がある。そのヒントにもなります。

 私たちは「幸せのために経営」しているのであり、「それって、命的にどうよ?」という秀逸な問いにも大いにインスパイアされました。

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