2016/09/02発行 ジャピオン880号掲載記事

共感マーケティング

第96回 関係性で売る

 デジタル化し、スマートフォンが普及し、ラインやフェイスブックなどSNSで人と人が国境を越えてつながった現代社会では、物体としてのモノをただ販売しているだけの商売は成立しません。アマゾンで済んでしまうからです。

 また、小手先の「おすすめ」は賢いAI(人工知能)があなたの検索履歴や過去の購買履歴、あるいはチェックしたブログ記事などから類推して提案するレコメンド機能の前には子供だましになってしまいます。いまだに百貨店の店頭でよく見掛ける、「お似合いになりますわー」程度のコメントなら、やがてロボットPepperの方が気の利いたセリフで顧客の気分を盛り上げてくれることでしょう。IBMのワトソンの対話を見るたび、AIの進化に驚かされるばかりです。(www.ibm.com/cognitive/jp-ja/outthink/stories

 そんな環境の中、商売人はどうやって売ればいいのか? 答えは、「顧客とのヒューマンな関係性を耕し、絆で売る」です。

事前の共感

 「金髪家主」こと吉井利仁氏は愛和苑という「長屋」を経営しています。入居希望者にはブログ(www.falo.jp/owner)を読んでね、それで家主のものの見方・考え方に共感した人だけ連絡ください、と伝えます。ブログには、「ベランダで梅を干す人」(二棟ある間の通路は風の道になっていて、日当たりも良く、だから入居者がベランダで梅を干している)、「連日のお掃除 愛和地蔵」(入居者有志も参加して敷地内にある地蔵の掃除をした)などの記事が。フェイスブックアカウントもブログに掲載されています。気に入った人だけ、友達申請してね、という姿勢です。ブログやフェイスブック文章には吉井さんの世界観が反映されているので、それに共感した人「だけ」が入居することになります。つまり、入居前から家主との間に関係性が築かれていて、①世界観の合う人だけがやってくるので入居してからのトラブルが未然に防げる、②長屋という昔ながらの日本のコミュニティ文化を形成する下地作りができる、というメリットがあります。

 同じく大家をやっている知人が勉強のために愛和苑を訪問したときのこと。部屋を見せて欲しいと、吉井さんに話したところ、その時在宅していたのが女性の部屋だけ。事情を話すと何のこだわりもなく「どうぞ~」と気軽にドアを開けて中を見学させてくれたのでびっくりしたそうです。「家主と入居者の心が通い合う関係性ができているからでしょうね。うらやましい限りです」と知人が感想を言っていました。

思い出に寄り添う

 石柳北原(www.ishiryu.jp)は、業界に価格競争の波が襲う中、ただ物体としての墓石を売るのではなく、「顧客の、故人に対する想いにじっくり耳を傾ける」ことにしました。ただ、故人の思い出に遺族と一緒に寄り添う。これだけで価格競争とは一線を画すことができました。もともと130年の歴史をもつ老舗、しかも一級技能士資格を持つ技能者が心を込めて石を加工するわけですから、品質は抜群です。伝えたい価値を、正しく顧客に伝えるため、販売前に心を通わせる。

 こうなると、販売は結果であり、目的ではないと分かります。

 チラシ、クーポン、キャッシュバック…顧客は賢い。顧客は顧客であると同時にビジネスサイドにもいます。「顧客」という立場だけの人はリタイアした高齢者以外はあり得ません。だからビジネスサイドの魂胆はすべてお見通しです。そんな小手先の技を使うエネルギーで、ヒューマンな関係性を築きましょう。急がば、回れ。

阪本啓一

今週の教訓
急がば、回れ

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

ヒューマンバンドをチューニング すれば全てが思い通りになる

自分をとりまく状況は、自分の内面をあらわすもの(本文より引用)

 まるで私の代わりに誰かが書いてくれたのかと思うくらい、わが信条とぴったり同じ内容の本でびっくりしました。著者のプロフィールが皆無なので、いったいどんな人なのか分らないのですが、量子力学を用いて解説されており、非常に納得できる内容です。

 人間、「足りない」「欠けている」ことにばかり目を向けがちですが、「あるもの」については「あって当たり前」と感謝すらしません。著者によれば、病気になったときや何か困ったときには「あるもの」に対して感謝することで、マイナスに思っている部分も自然になくなってしまう由です。これは実感として納得できます。

 スピリチュアルな話かというと、そうではなく、極めて論理的なのだけど、それでいて読みやすいという、不思議な本です。

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