2016/08/12発行 ジャピオン877号掲載記事

共感マーケティング

第93回 楽しさで経営する

 某カレー店。約10メートルあるカウンターのみ。客のオーダーを聞いた女性スタッフが厨房(ちゅうぼう)に口頭で伝えますが、間におじさんがいて、必ず彼が中継し、厨房に伝える仕組みになっているようです。

 名札を見ると、店長の彼は、いちいち女性スタッフに注意します。「皿受け取るときは声出せ」「そういう動きするからヤマダが振り返らな、あかんやろ」「返事せい」…。業務の流れは分かりませんが、彼の指示の一つ一つはきっと「正しい」のでしょう。でもカウンターの向こう側に流れるピリピリした楽しくない空気感は客席にも流れ込んできます。きっと店長、スタッフから嫌われているんだろうなあ、と思います。また、顧客体験としても、いかがなものか。「正しいことだから指示するべき」という論理が彼の中にあるに違いないのですが、それより「楽しく」やったほうがいいし、顧客のランチタイム体験を楽しいものに彩れるのに。

 スタッフたちもバカではありません。任せればいいのです。「上から命令して動かす」マインドは古い文法です。「正しいより、楽しい」をモットーにしましょう。

社長自ら笑顔

 新潟県燕市のプラニング瑞穂は「おしゃれ軍手」のメーカーです。3年ほど前、工場を訪問した際、私は丸山社長に二つ、アドバイスしました。第一に、工場内で流れるBGMをゾーンごとにそこで働く人たちに委ねましょうというもの。そのとき工場全域でラジオから流れていたのはAM放送のトーク番組のみでした。人によっては音楽を聴きたい人もいるかもしれない。そのほうが仕事が楽しく進むかもしれない。第二に、「社長、顔怖いよ(笑)もっと笑顔になりましょう」。このたび再訪して、驚きました。工場内の照明などは全く同じなのに、場内や、そこで働く人たちの表情が明るいのです。工場内の機械を明るい色に塗り替え、BGMも好きなものに。

 そして、「軍手」を「おしゃれなノベルティグッズ」としてポジショニングを変えて、売りたい対象を「広告代理店のノベルティグッズ担当者」にしました。彼らが見てイメージしやすく、かつ、簡単に捨てられない装丁と紙質、デザインのカタログを作成したのです。「たった一人」のインタレスト(興味関心)に焦点を当てるフォーカス・マーケティングを実行した結果、前年比230%越えの好業績です。また、カタログの表紙などを夏仕様にしているため、通常、手袋市場は春夏は閑散期なのですが依然好調な受注があり、編機はフル稼働していました。

「楽しく」を実行

 工場内に101台ある編機は1日1万人分の手袋を作れます。一口に編機と言ってもさまざまあります。多機能編機なら、手袋だけではなく、セーター、マフラーなども編むことができます。しかし、プラニング瑞穂工場にある編機は手袋1種類だけしか編みません。しかもワンサイズ。仮に多機能編機を使って手袋を作ったとしたら生産性は10分の1になるといいます。この絞りに絞った生産方法も、利益を生み出す秘訣(けつ)です。年末年始に引き続き、忙しいお盆夏休み時期になりそうとのうれしい悲鳴でした。

 丸山社長は「楽しくやろう!」を実行されています。このたび改装したオフィス部分はおしゃれな空間として生まれ変わり、床には「JOY WOW LOVE FUN」の文字が刻まれています。若いスタッフの笑顔が絶えません。若くてイケメンの工場長が現場を案内してくれましたが、彼も自信に満ちていました。陽が陽を呼ぶ好転サイクルが生まれているようです。やはり、「正しさより楽しさ」。楽しくやりましょう!

阪本啓一

今週の教訓
正しさより楽しさ

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

〈インターネット〉の次に来るもの

人間の歴史の中で、何かを始めるのに今ほど最高の時はない。今こそが、未来の人々が振り返って、「あの頃に生きて戻れれば!」と言う時なのだ。まだ遅くはない。(本文より引用)

 WIRED誌創刊編集長にしてビジョナリーな著者が現在の私たちを取り巻く「不可避な流れ」について12項目に分けて解説しています。知性がまるで電気のようにモノに流れ込む、AI(人工知能)があらゆるモノに付帯して、スマートになる。ウェブの中に限らず、自宅を、さらには「街の1時間前の光景」さえ検索できるようになる未来。AIがおそらく現在あるほとんどの仕事を置換します。

 例えば医師による診断。治療は医師がするにしても、診断はAIのほうが的確でしょう。例えば経営の財務。設備投資とその影響についてのシミュレーションはAIのほうが感情に流されることなく正確に成し遂げるはずです。そうなった時、人間が担うべき仕事は、やはりヒューマンで、アートな部分。いよいよ経営が楽しく、面白くなりそうです。

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