2016/07/15発行 ジャピオン873号掲載記事

共感マーケティング

第90回 ツボを押さえる

 昨日まで都内のホテルに滞在していました。

 外国人観光客が押し寄せる、いわゆる「インバウンド景気」というやつで、都内や横浜のホテルは軒並み異常なほど値上がりしています。ビジネスホテルクラスで2万円近いのですから、東京―大阪間の航空運賃のほうが安い。滞在したホテルはビジネスホテル、ネット予約で定価より若干安くなったのですが、それでも1泊素泊まり1万4000円、立派な価格です。

 フロントでチェックインしたら、「アメニティーはそちらからお好みのものを選んでお持ちください」と言われました。指差されたコーナーに行くと、シャンプー、リンス、体洗い用スポンジタオル、入浴剤、ヘアブラシ…と、通常であれば浴室洗面台に並んでいるアメニティーがずらり。持ち帰り用の小袋が用意されていて、それに入れるのだとか。部屋には最低限必要な歯ブラシとドライヤーしか置いてない由です。

 ここのところ、ラグジュアリーホテルといってもビジネスホテル化してきています。例えば冷蔵庫の中が空っぽだったり、ルームサービスの利用できる時間が決められていたり。では、ビジネスホテルはどうなってきているかというと、「究極の箱化」しています。とにかくベッドとバスルームがあるのみ。チェックイン・チェックアウトは機械が相手。これでもアメリカの同等ホテルに比較すれば、パジャマはあるし、文句のつけようがないくらいなのですが。

合理性極め
見誤るツボ

 さて、くだんのホテルの部屋に入ると、とにかく合理的です。ここまで徹底すると、財務諸表的にはとても良いのでしょうね。何しろムダが一切ない。「らしいな」と思わず笑ったのは、トイレの水洗強度がないこと。普通、「大」「小」二種類あるところ、「流す」ボタンが一個あるだけ。かと思ったら部屋の中に洗濯機と電子レンジがあります。そういえば、フロントで「ネット予約してくださった方だけのためのプレゼント」として、洗剤をくれようとしましたが、お断わりしました。全てにおいて合理的なはずが、洗濯機? これは外国人観光客に好評なのかもしれません。狭い狭い空間、ミニマリスト的合理性、にもかかわらず洗濯機と電子レンジ。よく分かりません。

 3日間滞在しましたが、最後のほうでは、自分がまるでこの合理性の一部品になったみたいで、息苦しくてなりませんでした。そう、あまりにきっちり整理整頓された部屋で居心地が悪いような、そんな感じ。

仕事のツボ
知らずに迷惑顔

 フロントで1万円札を両替してもらおうとしたら、「両替ですか!!」とはっきり迷惑な顔をされました。結果レジを見て、1000円札と5000円札があったので両替してもらいましたが、ホテルフロントの重要な職務の一つに両替があることを彼女は知らないようでした(婚礼や宴会、移動旅費に両替はつきもの)。

 どんな仕事にも「ツボ」というものがあります。そこを外してはいけない、という。ホテルのツボは「快適さ」「くつろぎ」「家のような」でしょう。それはビジネスホテルであっても同じ。

 きっちきちに経費削減されていたら、お客さん自身が経費に見え、現実がねじ曲げられてしまいます。「至善に止まる」という語が古典「大学」にありますが、「そこから先は踏み込んではいけない領分」を知るのも、大事なことです。どうやらこのホテルはそこが分からなくなってしまっているのかもしれません。狭い部屋に鎮座まします洗濯機を眺めながら、他山の石とせねば、と思いました。

阪本啓一

今週の教訓
お客さんに喜んでもらうため、が
本来です

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

公園対談 クリエイティブな仕事はどこにある?

「クリエイティブな仕事」なんてない (本文より引用)

 気鋭の映画監督と電通マンが世田谷公園で季節に1回、対談する。テーマは「クリエイティブな仕事」。大切なのは「答え」ではなく「問題の適切な投げかけ」、仕事の経験値を上げる、「創造」の声のもとに組織はできる、「勇敢さ」を基準に仕事をする…キラキラと刺激的な議論が展開されます。

 一気に全部を読むのではなく、対談にシンクロさせて、季節に一章読む、そして考え、実行する、という読み方が良いかもしれません。

 自国市場だけで採算合っている映画ビジネスがいまやインドと日本だけ、というのも面白い情報でした。確かにハリウッド映画、最近は外国資本が入っていますね。派手なアクションものやら戦争ものばかりで、食傷気味ですが、「英語がわからない人にもわかる」ようにするには、それしかないのかもしれません。

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