2016/07/08発行 ジャピオン872号掲載記事

共感マーケティング

第89回 絶対に売れてはいけない

 「絶対に売れてはいけない商品を企画する。一個でも売れたら罰金(笑)」

 企画力をつけるために、こんな思考実験をしてみてはいかがでしょう?

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 ただし、売る側は、「売りたい」と思っているんですよ。これこれこういう良い点があるから、売れるに決まっている。なのに客の立場から見れば「いらねーよ」となる、そんな商品を企画するのです。普段自分たちが企画開発している商品についてやることが効果的です。だから、一般の公開セミナーでは「初めまして」の人がグループワークすることになり、実は効果が出ません。同じ商品を共有していることが重要な前提条件なので、「プロジェクトチームが集まって」「営業部員全員で」とかが最適ですね。

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 これは実際に私のクライアントでやっています。必ず盛り上がります。ある女性下着会社では「絶対に売れないブラジャーを企画してください」というお題にしました。すると、出るわ出るわ、面白いアイデアが。企画したら、商品についてプレゼンテーションしてもらいます。

 「このブラジャーはとてもエコに配慮した素材でできています」という前置きで始まります。

 「その素材は、新幹線の床掃除で集まったおっさんの体毛を使っています。新幹線はきれいになるし、ブラジャーはできるしで、良いことずくめです。実際の人間の体毛なので冬は暖かく、夏は涼しい」

 ここで聞いているみんなは「え———っ」となる。「要らないし」とかささやきが漏れ始めます。 

 あるヒーターメーカーでは、「屋外バーベキューでのお困りごと。例えば、肉が落ちてしまう、火おこしが大変、燃料が重くて運ぶのが大変…。これらのお悩みを一気に解決しちゃいました!網ヒーター!金網がそのままヒーターになっているので、火おこし要らず。車の電源で十分に発熱しますので電源の心配もいりません。網だからお肉が落ちてしまう心配もご無用です」と始まりましたが、みんなの反応は意外にも「いいじゃん」「いくら?」「ほんとに作ってよ」というもの。プレゼンターが「いやいや、BBQの楽しみは火おこしじゃないんですか? それができないんですよ」と慌てて自分の商品をけなし始める始末(笑)。結果、聴衆の8割が「買う」に手を挙げて、「売れてはいけない」企画としてはボツになってしまったのです。

 この思考実験を通して気が付くのは、「一個も売れない商品を考えることは、実は相当難しい」「売れない企画をすると自社商品の価値を根っこから見直すいい機会になる」「顧客との関係性を見直す視点が得られる」ということです。すべて物事は陰陽です。マイナスを考えることは実はプラスについて考えることと同じ。

 「売上が伸びない」「社員のモチベーションが上がらない」「リピート客が少ない」…、これら「問題」たちについて「売上がゼロになるためにはどうすればいいか」「社員のモチベーションがまったくなくなるにはどうすればいいか」「客がリピートしたくなくなる店にするにはどうすればいいか」という視点で考えることで、「売上を伸ばすためには何をすればいいか」「社員のモチベーションが上がるためには何をすればいいか」「客がリピーターになるためには何をすればいいか」というチャンスに取り組むのと同じ成果が得られるのです。しかも、よくある思考の延長線上ではないので、思いがけないアイデアがひらめく可能性がある。

 ぜひ、社内でやってみてください。何よりも「うちのお客さんって、どんな人?」と、顧客についてたっぷり考えるいい機会になると思います。

阪本啓一

今週の教訓
人間、悪いこと考えていると
楽しいものです(笑)

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

翻訳できない 世界のことば

HIRAETH/ヒラエス ウェールズ語 帰ることができない場所への郷愁と哀切の気持ち。 (本文より引用)

 世界には、「翻訳できないニュアンスを宿した言葉たち」がいっぱいあります。そんな不思議な言葉たちを英国在住の20代のイラストレーターが集めました。

 日本語は「木漏れ日」「わび・さび」「積ん読」「ボケっと」が入っています。

 ギリシャ語「meraki(メラキ)」は「料理など、なにかに自分の魂と愛情を、めいっぱい注いでいる」様子を指す言葉。ギリシャ人が一所懸命料理している姿がイメージされます。ズールー語「ubuntu(ウブントゥ)」は「あなたの中に私は私の価値を見出し、私の中にあなたはあなたの価値を見出す」という意味で、「人のやさしさ」を表すそうです。

 ページをめくるたび、世界は愛に満ちていると思わざるを得ません。人間がもっと好きになる、そんな一冊。子供たちに読んで聞かせてあげても面白いですね。

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