2016/07/01発行 ジャピオン871号掲載記事

共感マーケティング

第88回 存在意義

 「ビジネスとは、お金儲けのためのものである」という定義は、間違ってはいませんが、十分ではありません。いえ、むしろ幼い未成熟な定義です。しかし、書店のビジネス書コーナーに行くと、「稼ぐ」「バカ売れ」「儲かる」など威勢のいい言葉が目につきますし、売れています。これは経済や経営の世界がまだ未成熟な証拠だと思います。

 「お金の流れでわかる世界の歴史」(大村大二郎著、 KADОKAWA)という面白い本があって、著者は元国税調査官。人類5000年の歴史を「お金」で切るとどうなるかという企画です。

 本書を読むと、ローマ帝国滅亡は脱税が原因だった、無敵のナポレオンは金融戦争で敗れた、世界経済の勢力図を変えた第一次世界大戦…など、歴史上の出来事の背景には必ずお金があると分かります。

 そして、結局人類は5000年の間、お金について同じことを繰り返してきたに過ぎないとも言えます。そろそろ経済や経営をバージョンアップする時期にきていると思います。旧来のビジネス1・0を進化させ、ビジネス2・0にするためにはどうすればいいのでしょう。

 それは、事業目的の再定義から始めるのが適切でしょう。ビジネス2・0では、「社会のお役立ち」を事業の目的とします。もちろん、たやすいことではありません。だからこそ、その重責を引き受ける覚悟と継続する志が求められます。

 「今期の売上目標は**ドル、利益目標は**ドル」と、経営目標といえばお金の数字しか社員に伝えない社長は、目標設定が間違っています。売上や利益は結果であり、目標ではありません。

 そうではなく、「社会に存在するいかなる課題を引き受けるのか」「お客さんにどんな喜びを与えるのか」が重要なのです。経営理念、志、ビジョン、ブランド提供価値、何と呼んでもいいのですが、ここでは簡単に存在意義としましょう。これは社員教育にも影響します。

 新入社員は、「自分」と「会社」の間に心的距離があります。わたしの利害と会社の利害は一致していません。わたしはわたし、会社は会社です。彼女の主語は「わたし」という一人称単数。これが「わたしたち=わたしと会社」と複数になると次のステップに上がれます。そのためには、「わたしの仕事が社会やお客さんのこれこれに役立っている」という、彼女の現場での仕事と会社の存在意義との間にスキマがなくなることが重要です。これが「今期売上目標**ドル」ではスキマが埋まりません。数字を追うには追うでしょうが、数字の先にある会社の存在意義にまで思いは至らないでしょう。仕事の内容によりますが、とはいえ、社員一人でこの心的スキマを埋めるのは困難です。

 このため、月に一回は「うちの会社は社会に役立っているのか?」「役立っているとしたらなぜか・どんなところか」「働く幸せとは何か」といった抽象的なテーマを社員みんなで議論する時間を用意しましょう。日頃は具体的な業務連絡のみですが、抽象的な議論こそが、社員の視野を広げ、視点を多様化し、視座を高めます。

 そして主語が「わたしたち=わたしと会社」になったら、上司が言わなくても経費を気にするようになるし、メールや電話の言葉使いに神経を行きわたらせるようになります。

 さらに、「わたしたち=わたしと会社とお客さん」というように、お客さんにまで主語が広がると理想です。つまり、お客さんの喜びが自分と会社の喜びになる。こうなったとき初めて、会社の掲げる存在意義に命がふきこまれるのです。

 ビジネスを、進化させましょう。

阪本啓一

今週の教訓
重責を引き受ける
覚悟が必要です

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

幸せになる勇気

世界はシンプルであり、人生もまた同じである。しかし、シンプルであり続けることは困難であり、そこでは日々が試練となる。(本文より引用)

 100万部のベストセラー「嫌われる勇気」続編ですが、前著を読んでいなくても十分理解できます。わたしは、本書のほうがより実践的で、かつ、疑問にしっかり答えてくれる内容だと思います。

アドラー心理学はなるほどと思うものの、実は深いところまで理解するのは困難です。本書は「課題の分離」「尊敬」「交友」「共同体感覚」「信用と信頼」「愛」など、アドラーの個人心理学について存分に学べます。中でも「人生の主語を切り換える」部分で、組織論の重要なヒントをもらいました。アドラーはビジネスにも適用できる、柔軟な思想だと思います。

そして、読むだけではなく、実践するためのとても良い指南書です。特に「愛とは、ふたりで成し遂げる課題である」の項、なるほどーと膝を打ちました。

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