2016/06/10発行 ジャピオン868号掲載記事

共感マーケティング

第85回 ドヤリングを使おう

 街を歩いていて気を付けなければならないのは、車ではなく、向こうから歩いてくる通行人とぶつかることです。スマホを見ながら歩いているため、注意散漫の人が多い。人がスマホを使うというより、スマホが散歩したいので人を使っているのではないかとまで思います。

 スマホとSNSの普及で、マーケティングの原理原則が大きく変わりました。人間のアテンション(注目)が希少資源になってしまった。マーケティングはメッセージの伝わった人にいかなる行動を促すかを創造する営みです。ところが、その最初のメッセージ受信がアテンションが得にくいために難しくなっている。

 伝統的マーケティングの、見込み客が購買に至るまでのプロセスを解説する「ファネル(じょうご)理論」では、口の広がっている方を上にして、下がるほど小さくなります。つまり、広告や宣伝を目にし、メッセージを認知、検討して選考、そして購買に至るという図式。このプロセスを経るごとに人数は減っていき、購買してくれる客はじょうごの最後の最後になる…というのがファネル理論なのですが、そもそも一番最初のステップ、「認知」が成立しません。マス広告を打ってアテンションを引き、見知らぬ通行人を見込み客に、見込み客を顧客に、というプロセスそのものが、アテンションが稀少資源になった現在成立せず、ファネルは適切ではなくなっています。ではどうすればいいのでしょう。答えは、「客に伝えさせる」です。
 
 こんな新車を買いました、ドヤ!こんなにおいしそうなランチをゴージャスなお店でいただきますのよオホホ、ドヤ! こんなに難しそうな本で勉強しよう子供が生まれました。とってもかわいいでしょ、ドヤ!うちのペットのネコちゃん、どうしてこんなにかわいいんでしょう、ドヤ!そうです。SNSは「ドヤリング」の広場。みんな投稿に忙しく、人のはあまり読んでない。まー、付き合いだから「いいね!」ボタンは押しますが(笑)。このように、人が多くの時間目を当てているスマホ画面にはドヤリングのネタで埋まっており、これら「仲間ごと」で企業からのメッセージは届きません。だからこそ、ドヤリングのネタになりうるコンテンツを発信するのです。また、メッセージ発信の場所もよく選定する必要があります。

 まず、受信媒体はもはやパソコンではなく、スマホです。だからウェブサイトもスマホ対応にするのが必須。気の利いたブランドはスマホのアプリを用意しています。実際、日本航空や三菱東京UFJ銀行、アマゾンなどではスマホアプリの方がパソコン・ブラウザより操作性が良いので重宝しています。アマゾンは検索窓のカメラマークをタップして商品にかざすだけで、アマゾン取り扱い商品であればその場ですぐに注文できますし。

 さらに対象顧客が働く女性の場合、LINEが有効です。キユーピーはLINE画面のかわいい着せ替えを用意しています。

 バルミューダのトースターも、ドヤリングで広まった事例です。もちろんパンがとってもおいしく焼けるというコアな価値は重要ですが、通常のトースター価格帯の10倍という価格、スタイリッシュなデザイン、開発に至るまでのストーリーなど、ドヤリングには十分魅力的なネタです。

 ガリガリ君が10円値上げしたのにもかかわらず告知CM動画のユーチューブが拡散され、好意を持って迎え入れられたのは、普段からガリガリ君というブランド・アイコンが共感の貯金を貯めていたからに他なりません。ドヤリングしてもらうためには、まず、共感の貯金をコツコツSNSで積み上げておく必要があります。

阪本啓一

今週の教訓
客を使いましょう(笑)

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

大きな鳥にさらわれないよう

それまでの人類の歴史は、俺たちに自信をなくさせるのに充分なほど支離滅裂なものだった。人類は、いわば自分で自分を食いながら生きてゆこうとする蛸のようなものだった。そして、その誤謬を知りながら、誰も決定的な修正をおこなおうとはしなかった。(本文より引用)

 不思議で静ひつな文体。淡々と物語は進み、でも圧倒的な力で迫ってきます。地球と人類は、このままではきっと「終わり」を迎えると、誰もが薄々感じていることと思います。では、どんな風にか。その先はどんな景色が広がっていくのか。川上弘美の圧倒的な想像力の紡ぎ出す景色に、ただただわれを忘れて読み浸りました。そして人類の未来は、きっとこういう形を迎えるのだろうと思いました。

 何より、自分自身の中にある「恐怖」を認めることから始めなければ、と思いつつ、科学技術が人間を救うと信じてきた20世紀少年ですが、どうやら科学技術は人間を使って自己増幅したいだけではないのかと思い始めています。ほら、スマホが散歩するために人間を使っているように。科学を、神を、どう位置づけるのか、再考する機会になりました。

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