2016/05/27発行 ジャピオン866号掲載記事

共感マーケティング

第83回 「かもしれない」の視点

 帰宅して、「ただいま〜」と言ったら電気がつく。リビングルームで椅子に座って「テレビが見たい」と言えば空中に映像だけが立ち上がる。指を鳴らす回数で選局。よく視聴する局は事前に設定できている。映像はネットのものも可能。ユーチューブやアマゾンプライムで映画を視聴できる。映像はテレビやパソコンなどのハードウェアを使わず、自宅の好きな場所で立ち上げられる。例えばお風呂、例えば、寝室などどこでも。「as you like」。映像に限らず、BGMもどこでも楽しめる。

 実はこの「賢い家(スマートハウス)」構想、今から10年前、某家電メーカーにプレゼンテーションしたことがあります。家電メーカーは「めっちゃいいですね!」と大賛成してくれたのですが、では、具体的に進めましょうとなった折、思わぬ壁に当たりました。それは、メーカーの縦割り組織です。テレビ、電灯、レンジ、システムキッチン…、それぞれの「製品をうまく売る」ことを目的として最適化された組織で動いていたことと、人事評価制度がそれを前提に設計されていたので、組織と人事評価両方から外れてしまう企画だったのです。

 いままた第4次産業革命(インダストリー4・0)の議論でスマートハウスの話題が出ますが、そこで最初に議論すべきは構想を実現するテクノロジーの可否ではなく、組織と人事評価システムのデザインなのです。10年前、既にテクノロジーの観点からは全て実現できる技術をそのメーカーは持っていました。つまり、産業革命の波に乗ろうと思うなら、それに適合する組織と人事評価システムが必要なのです。

 人は無意識のうちに発想に壁を作っています。ややもすると法的、制度的な外部環境要因が阻むかのように思いますが、一番の壁は自分の頭の中にあります。特にその業界に長くいればいるほど、勝手に「できない」壁ができてしまっているもの。

 対処法は、「かもしれない」の視点です。自分が「当たり前」と思っているものを「違うかもしれない」と疑ってみる。

 例えば、スマートカー構想では、車本体価格はゼロ円になるかもしれません。スマホが工場出荷時には空っぽの箱で、ユーザーが各自ライフスタイルに合ったアプリを入れて使い勝手を磨いていくように、スマートカーも買った時点では何もない。ユーザーは各自必要なアプリを車にダウンロードする。そして利用データ(走行距離、走行場所の天候、使用エネルギー量…)を必要な企業に「販売」する。つまり、ユーザーは自分のビッグデータで車を買うに等しい。これは私が勝手に考えた絵空事でもなく、BMWでは似た構想があるようです。

 イノベーションは常にそれまでの常識を超えた場所にあります。延長線上にあることはめったにありません。まず社会の変化があり、その変化に機会を発見したイノベーターが発明してきました。都市の形成という社会変化を見て、「人が一カ所に多く集まるようになる。そうすると照明がこれまでと同じようにキャンドルでは不便だ。火災の危険もある。新しい照明のためのエネルギーが必要になるかもしれない」ということで、電力による照明を構想し、そのための欠けたピースとして電球を発明したのがエジソンでした。電球を発明してしまった後、出口として電力照明を構想したわけではないことが大事です。

 「かもしれない」の視点、柔軟な組織、柔軟な人事評価制度。この三つが、これからのビジネスには必須です。つまり、小さな組織のほうが有利なのです。今日すぐ進路変更できますから。商機は小さな組織こそがつかめる時代になっています。楽しみですね!

阪本啓一

今週の教訓
障壁は自分の頭の中にあります

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

りんごかもしれない

よく みたら ぼくいがいは みんな りんごなのかもしれない (本文より引用)

 「ある日学校から帰って来るとテーブルの上にりんごが置いてあった。・・・でも、もしかしたら、これはりんごじゃないのかもしれない」

 主人公の少年のこの疑問から物語は始まります。赤い魚がまるまっているのかもしれない。宇宙から落ちてきた小さな星なのかもしれない…。このように「かもしれない」が続きます。たった1個のりんごから生まれる視点の面白さ。子供より、大人が楽しめる1冊です。

 私のクライアントは「思い込みを排し、柔軟な視点で人や物事を見るようになる」目的で、新入社員からベテランまで、全員必読の1冊に指定しています。電話、カメラ、ビデオカメラ、ウェブブラウザ、メールソフト、SNSの窓、決済機能を1個の箱にまとめたのがiPhoneになったように、視点の転換をしてみましょう。

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