2016/05/20発行 ジャピオン865号掲載記事

共感マーケティング

第82回 先輩の知恵を活用しよう

 京都を散策していてたまたま出合ったお店が江戸時代からの老舗、京漬物の村上重本店でした。お土産を買いお金を支払おうとして気付きました。お金を入れるトレーがありますね。その金属製トレーに、座布団が敷いてあるのです。「お客さまからお預かりするお金を大切に思っていますよ」という無言のメッセージを受け取り、さすが老舗の心配りはすごい、と思いました。

 店員さんはみんな愛想よく、ニコニコと積極的に話し掛けてくれるし、まるで「今日開店したばかりの新しい店なので、どうぞよろしくお願いいたします!」とはりきっているような、そんな空気感を感じるのです。創業が天保年間といいますから、180年事業が続いていることになります。「実るほど、頭を垂れる稲穂かな」を思い出しました。老舗は、ただ長く続いていることに価値があるのではないというのが私の意見です。むしろ社会の変化にうまく適合し続けられる「変化適応の達人」な部分、そここそが、老舗から私たちが学べることだと考えています。では、「お金トレーの座布団」から何が学べるでしょう。おサイフケータイ、なんとかコイン、など、デジタルな支払い方法が普及し、クレジットカードでの支払いも当たり前になった昨今だからこそ、現金を大切にするために座布団を敷くというアナログな感覚が新鮮なのです。

 村上重本店社内で、「変化適応力」が先輩から脈々と受け継がれているさまが推察できます。「ただ古い」だけではないのです。

 近所のモスバーガーであらかじめ電話注文しておくと、店に着いたときには出来立てのものを用意してくれます。電車から降りて、駅から電話し、店に行くと、「いつもご利用ありがとうございます。」の文字と一緒にかわいいイラストの描かれた小さな袋に「お電話代」として10円、返金してくれます。この店に通いだして5年になりますが、当初、私の母親くらいの年配の女性がかわいいモスの制服を着て働いているのにびっくりしたものでした。でも、注文する際、カウンターの前でにこやかに待ってくれていると、慌てずにメニューを選ぶ心理的余裕ができて、心地いいことに気付いたものです。モスバーガーでは、高齢者雇用を積極的に促進しており、「モスジーバー」と呼んで親しまれています。その店には、他店舗にはない心配りがあります。例えば月見シーズンには花瓶にすすき。店外のメッセージボードは季節や天候を反映したナイスな言葉が丁寧な文字で書かれています。床はピカピカ、トイレもきれい。現在、日本の飲食店現場は人が少なく、掃除も行き届いていなくて、店によってはちょっと嫌なにおいが漂っていたりすることがありますが、モスバーガー店内は一切そんなにおいはありません。また、店内に神社の熊手が飾られています。商売人の多いお土地柄、好ましい気持ちで眺めるお客さんも少なくないはずです。

 現在、商売のヒントの入手経路はネットの検索、SNSの誰かの投稿などから得ている人が多いのではないでしょうか。そして、せいぜい本から。それはいかにももったいない。年長者の知恵を生かす工夫をもっている会社はほとんどないのでは。人生の先輩の知恵は、彼らの人生そのものが1冊の本です。生の肉声から得られる知恵は、最新ページに書かれた文字とも言えます。人が人に対して行う営みである以上、商売に、人生の先輩の知恵はとても役に立ちます。高齢者を雇用するだけではなく、高齢者顧客の声に耳を傾けるだけでもヒントが満載のはずです。先輩から、知恵を、いただきましょう。ちなみに私が注目していた女性スタッフはいつの間にか店長になっていました。

阪本啓一

今週の教訓
人生こそが、
偉大な本だと思います

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

天才

端的にいって政治家個人の発想でまだ若い時代に四十近い議員立法を成し遂げ、それが未だに法律として通用しているという実績を持つ政治家は他に誰もいはしまい。

 「金権政治」「闇将軍」。私の中の田中角栄のイメージといえば、どちらかというと、ダーティーなものでした。

 そしてなぜ石原慎太郎が田中角栄について書くの? というのも不思議でした。反田中の急先鋒だという印象があるからです。

 ところが本書を読むと、田中角栄という稀有(けう)な政治家の常識を超えた発想がどこにルーツを持ち、そしてそれがいかにすごいことかがはっきり分かります。確かに石原慎太郎の言うように、現代日本の礎の多くを作ったのは、角栄政治なのかもしれません。

 「見直し現代史」的視点で読むと、「そうだったのか」という発見を多く得られます。巻末にまとめられた、田中角栄が提案者となって成立した議員立法も壮観です。

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