2016/05/06発行 ジャピオン863号掲載記事

共感マーケティング

第80回 哲学を持とう

 熊本、大分を中心とした九州地方の地震は収束のめどが立っていません。エクアドルでマグニチュード 7・8の大きな地震が起こり、東北、関西でも地震がたびたび発生しています。どうも地球に変なスイッチが入ってしまったみたいで、どこにいても安全ということはない世の中になってしまいました。こういうときこそ、商人に求められるのは「哲学」です。例えば、「何を目的として商売をやっているのか」「何を自分の『成功』とするのか」「どうなったら幸せと感じるのか」という問いについて考えることです。何をやるか(doing)より、どうあるか(being)。

 私の哲学の根本を成している柱は、「諸行無常」。宇宙の全ての物事は変化し続けており、川の流れのごとく、一瞬たりとも同じものはない。だからこそ瞬間瞬間が大事。お客さんとの出会いは常にプレシャスなもので、「来てくれただけでありがたい」という感謝の気持ちしかなくなります。

 「当たり前」というものは存在しない。朝、「行ってきます(行ってらっしゃい)」と言葉を交わしても「ただいま(おかえり)」が言えるかどうかは分からない。いつも隣にいてくれる人(家族や会社の仲間)が明日もいてくれるかどうかは分からない。だからこそ、「いま」「ここ」の一瞬をこの上なく慈しみ、大切にしなければ。

 この「諸行無常」哲学は、阪神淡路大震災、ニューヨークの同時多発テロ、東日本大震災の経験から得たものだと自己分析しています。「全ては移りゆく、だから愛おしい」。その上で、商人にできることは何か。

 「どんなときにでも店を開ける」。それが商人の義務だし、矜持(きょうじ)と考えています。私の「何を目的として商売やっているのか」は「どんなときにでも人にJOYとWOWを与えること」です。

 阪神淡路大震災の朝、大阪市福島区のマンションもかなり揺れ、食器棚から皿が落ちて粉砕、当時幼かった子供には危険なので、歩いて行ける北区の実家へ「避難」することにしました。歩いていると、とある新聞販売店の前に差し掛かりました。きれいに整列されたオートバイに次々乗り込んで、朝刊配達に向かうところでした。私は、配達員のその姿を「頼もしい」と思いました。彼らも地震の全貌が分からないままなのです。それでもニュースを家庭に届けるぞ、という使命感。停電のためテレビも観られず家を飛び出した私は、「情報を届ける」新聞販売店の矜持を目の当たりにして感動しました。

 東日本大震災の当日、私は神奈川県葉山の自宅にいました。近所のスーパーマーケットは当日の夕方、普通に店を開けていました。心細いときに、店から漏れる明かりは励ましになったものです。つまり、商売は人を元気にし、勇気を与えることができるのです。

 ニューヨークで同時多発テロが発生した当時、私は同地に住んでいました。自宅窓から当たり前のように見えていたツインタワーが、跡形もなく消えている景色に「底から揺さぶられるような不安」を感じました。その後の炭疽(たんそ)菌騒動でも不安が増しました。何ができるか。私は、それでも一歩足を前に出すしかないと考えました。いつものように原稿を書き、いつものようにコンサルティングをし、いつものように生活する。喜びと感動を伝えるために。できるかどうか分かりません。分からないけど、やるしかない。

 商人といえど人間です。自身が被災することもあれば、家族や友人、知人が被災することもある。感情が揺れるのが当たり前です。私にもいろいろありました。ただ、そういうときこそ「自分は何のために商売やっているのか」という「柱」を持っていることで、その柱につかまることができます。哲学を持ちましょう。

阪本啓一

今週の教訓
「当たり前は、ありません」

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

芸術と科学のあいだ

何億年か先、人類は至準化石となる可能性が高い(本書より引用)

 ジャピオン編集部のKさんからおすすめいただき、あまりに良い本なので一気読みがもったいなく、上等のお酒をちびりちびり楽しむように読み、5カ月近くもかかってしまいました。それほど内容が濃く、しかも面白く、勉強になることばかり。 優れた科学者は、芸術にも造詣が深い。高層ビルが林立するマンハッタンの街区を構成する碁盤の目の東西の線(ストリート)に沿ってぴったりと夕日が沈む美しい光景(マンハッタンヘンジ)、アンモナイトのらせんの美しさなど、豊かな感性にも触れることができます。引用した言葉にある「至準化石」とは、それが見つかることによって地層の地質年代を特定することができる化石のこと。人類は、やがて滅びるのでしょうか。いまの時代、それもあながちあり得ないこととは思えません。

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