2016/02/26発行 ジャピオン853号掲載記事

共感マーケティング

第71回  人生の記憶を作る

イチゴの思い出

 出張先では地元の新聞に目を通すようにしています。福岡出張の折、西日本新聞を読んでいてびっくりする記事に出合いました。見出しが「イチゴ狩り外国人9割」。中国などの旧正月(春節)に伴う大型連休期間(2月7日〜14日ごろ)には、筑紫野市「ちくしの農園」で催されるイチゴ狩りの予約の9割が外国人で、特に香港、マカオ、タイ、マレーシアからの観光客でにぎわうとの内容です。香港から来た10人家族も参加していて、幼い子供が「Yummy!(おいしい)」と連発していたといいます。

 いま、日本は中国をはじめとするアジア諸国からの観光客で、ちょっとした観光バブルになっているのですが、報道されるのは「爆買い」、つまり、家電量販店やドラッグストアでの大量まとめ買いの話ばかりです。きっとそれはごく一部の姿でしかないはずと思っていたのですが、やはりそうでした。団体旅行でドカンと来て、買い物をしまくり、そして帰る、という「量を目指す」旅行スタイルだけではなく、中には、「家族でイチゴ狩りやろうか」といった「量より質」の旅を楽しむ人もいるのです。興味が湧いたので、宿泊中のホテルに取材してみたところ、事前にEメール(英語)でホテル近隣のレストランの予約を依頼してくる客が増えているそうです。ホテル周囲には佐賀牛の名店が多いという情報は、ネットや人気ブロガーの記事で知られるようになったといいます。スタイルは団体旅行ではなく個人旅行です。イチゴ狩りの新聞記事にも、旅行ブロガーの体験記を読んで知ったという話がありました。

 母親に抱かれて「Yu- mmy!」と言っていた子供も、あと10年もすれば「あのとき、日本でイチゴ狩りしたね」という人生の記憶になるはずです。こう考えていて、ふとひらめきました。「そうだ!私たちは顧客の人生に記憶を刻む仕事をしているのだ!」と。自分の仕事は、「良い記憶」となっているだろうか。このチェックポイントは、ホテルやレストランなど、特にサービスの品質が鍵となるビジネスで重要です。

ソルトを延々と入れ続けている

 「そう思って、ここ数週間の出張を振り返ってみました。あるホテルのレストランで夕食をとっているとき、時間が早いせいもあって、客は私1人でした。レストランの若いスタッフがテーブルの上のソルト(塩)容器を持ち上げては残量をチェックし、補充していました。広いフロアで、テーブル数は相当あります。彼女は私が食事をしていた約1時間、延々とソルトを補充していました。私にとってこのレストランの記憶は、「スタッフが延々とソルトを入れ続けている」だけになっているのです。料理の味も、ご自慢の「当ホテルで作った地ビール」の味も残っていません。ただ「ソルトを補充していたなあ」です。そもそもソルトの補充って、客の前でやることではありません。レストランフロアを舞台とすれば、楽屋準備を見せているようなもの。この辺りにこのレンストランの「ゆるさ」が出ています。

記憶チェックをしてみましょう

 みなさんのお店や会社で、「顧客の記憶チェック」をやってみませんか? Eメール一本、電話一本、メニューの説明一回、オーダーされた注文の皿を運ぶ一瞬、トイレのドアを開けた一瞬、全てが記憶になり得ます。インターコンチネンタル大阪はエントランスに一歩入った途端、専用のアロマが迎えてくれます。上階のレストランのトイレでも香ります。聞けば、排気口を使ってアロマを出している由。記憶に配慮していますね。

阪本啓一

今週の教訓
あなたの一言、一本のEメールが
お客さんの記憶になります

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

「模倣の経営学」

芸術的な経営も模倣から始まるのかもしれない。実際、ビジネスの世界で常識を覆して新しい事業を立ち上げた名だたる経営者は、模倣や参照のしかたがとてもうまいように思える。(本書より引用)

 模倣は「やってはいけないこと」「恥ずかしいこと」とされがちです。著者は、「模倣こそが創造の母である」とし、ヤマト運輸、トヨタ、スターバックス、セブン―イレブン・ジャパンなど、優れた企業が「まねて、超える」ことで成長した豊富な事例を挙げながら、遠い分野の成功例から骨組みを抜き取り、自社に応用する方法について述べます。確かにビートルズもボブ・ディランやエルビス・プレスリーの模倣から出発し、世界を変えました。
 ゼロを1にするのはリスクを伴いますし、経営資源(特に資金)も必要です。中小企業にとってはリスクを小さくできる模倣戦略が重要だと思います。ジョンソン・エンド・ジョンソンが使い捨てコンタクトレンズを開発して新しい市場を創出した横展開戦略事例など役に立つケースが満載!

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