2016/02/19発行 ジャピオン852号掲載記事

共感マーケティング

第70回  つぶれるとしたら?

つぶれるとしたら?

 ビジネスセミナーでよくやる思考実験に、「つぶれるとしたら?」があります。あなたのお店や会社、ブランドがつぶれるとしたら、それはどんな場合でしょう?あるレンタカー会社の人は、「①○○○(ビジネスエリアの地名)が観光地として人気がなくなったとき、②格安料金のタクシー会社ができたとき」としていました。私は二つのアドバイスをしました。まず、エリアの観光地としての人気が落ちる想定は、自力ではどうしようもない事態です。いまの世の中、何が起こるか分かりませんが、これについては「考えても仕方ない」「いま自社でできることではない」ので、省きます。経営で大事なことは「いま、できること」ですから。

 それより、「格安料金タクシーの参入」を想定することが重要なポイントです。なぜなら、「うちより価格が安いと、お客さんがそっちに流れて経営が成り立たなくなる」という論理であり、それはすなわち、自社の強みを「低価格」としか考えていない証拠だからです。価格は顧客が購買する数ある理由の一つに過ぎません。また、自社のビジネスを「観光客を運ぶ」としか捉えていないことも分かります。レンタカービジネスの価値は、本当にそれだけでしょうか。

 私はさらに、どんなお客さんが利用しているのか、質問しました。外国からのお客さんが多いそうです。外国って?中国の人です。一口に中国と言っても幅広いよね?中国のどこから来ている人?うーんと、香港とか上海。香港のどんな人?ファミリーです。何人家族?5人が多いかな。どこ行くの?えーっと、分かりません。家族ということは赤ん坊もいる?います。紙おむつとか、用意している?それは考えたこともないです。外国人観光客にはドラッグストアが人気だけど、近隣のドラッグストアマップとか、用意してる?してません…。

 こういう会話を通して、いかに自分たちの顧客理解が浅いのかが分かります。そして、現在のお客さんを深堀りしていくと、彼らが日本観光で何を求めていて、どんな「不(不安・不満・不便)」を感じているのかが見えてきます。それらの「不」を手当てしていくだけでも、「うちにしかできないとんがり」が見えてきます。

「Me, too」

 「つぶれるとしたら?」の問いへの答えは、同じ業界にいる会社で往々にして似てきます。「それって、特に御社に限った話ではないですよね?」と問い返すと、みんな詰まってしまいます。つまり、主語がない。主語とはすなわち、「業界常識とは違う、うちならではの価値に立った、とんがり」です。業界に長くいればいるほど、「Me, too」が頭の中を侵食します。先のレンタカーの「観光地としての魅力がなくなったら」「格安料金タクシーの参入」など、その最たるものです。

 富士フイルムはデジタルカメラやケータイカメラの普及で、写真フィルムを使わなくなっていく経営環境の中で、自社が直面する状況を「まさにトヨタにとって車が社会からなくなるようなもの」と捉え、「写真フィルムだけやっていたらつぶれる」という危機感で自社の価値を蒸留しました。結果、ナノテクノロジー(超微細技術)と乳化の技術が自社の鍵だと判断、現在は女性の基礎化粧品や医療機器の会社になっています。今期8%増益だそうです。「もっと写真フィルムを使ってもらおう!」と「過去を守る活動」に経営資源を割いていたら、今頃、どうなっていたか分かりません。

 「つぶれるとしたら?」の思考実験をぜひ、やってみてください。自社の強みと業界常識に気付く良い機会になると思います。

阪本啓一

今週の教訓
Me, tooは知らぬ間に
浸透するので要注意!

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

「新しい道徳」

古くさい道徳を子どもに押しつけたって、世の中は良くなんかならない。そんなことより、自分の頭で考え、自分の心で判断できる子どもを育てる方が大切だろう。そのためには、まず大人が自分の頭で考えることだ。道徳を他人まかせにしちゃいけない。(本書より引用)

 引用した言葉はそのまま、私の経営観に響きます。経営をビジネス書任せにしてはいけません。「こうすれば、こうなる」という思考の柱で成り立っているのがビジネス書ですが、実際の経営は「こうしても、こうならない」の連続です。なぜなら人が人の気持ちに向けて行う営みこそが経営であり、商売ですから。お客さんを振り向かせるのは、好きな女の子を必死で振り向かせる営みと同じだと思います。要するに、感情です。自社の強みを「つぶれるとしたら?」の思考実験で見つけ、「Me, too」に陥ってないかをチェックし、「ならではの売り」を創造する。これこそが商売の醍醐味(だいごみ)です。

 北野武の「常識を疑え」という姿勢に触れることで、業界常識からフリーになって考えるきっかけとしていただきたいと思います。

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


ただいま配布中発行

巻頭特集
「ニューヨークの家賃は学区で決まる」。そうささ...

   
Back Issue 9/14/2018~
Back Issue ~9/7/2018
利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント