2016/02/12発行 ジャピオン851号掲載記事

共感マーケティング

第69回  惚れさせよう!

刷り込みの怖さ

 日本人は、小学校で、大体次のような問題を解いてきました。「『○+9=10』の○に当てはまる数字を答えなさい」答えは一つです。

 しかしながら、オランダの小学校では「○+○=10」の○について答えさせるといいます。こうなると、0+10、1+9、2+8、3+7…と、何通りも答えがあります。「0+10と10+0は違う」というルールにすれば、さらに増えます。この話を耳にしたとき、深く考えさせられました。

 経営者向けの塾を主催し、また、あちこちのセミナーに招かれてお話する仕事をしていますが、やはり参加者はみんな「答え」を求めます。しかも、「こうすれば、こうなる」という方程式のような「うまくいく答え」を。つまり、「○+9=10」における1のような唯一の正解を求めているのです。

 とはいえ、百戦錬磨の経営者なら、「商売は、単純化できない」ことも、よく承知しています。「人が人を相手にする営みが商売だから、このボタンを押したら こんな答えが出る、というような、まるで自動販売機のような話には、ならない」と。とはいえ、教育の刷り込みは怖い。「人と違う」と不安に思うものです。

論理的思考万能説は間違い

 だからといって、「○+○=10」のバリエーションばかりを考えるのも本当の意味でお客さんのハートをつかむことにはつながらないと思います。あくまで論理であり、論理はどこまで行っても論理です。私は、商売は恋愛と同じと考えています。好きなブランド、惚(ほ)れてる店に、理由はないんです。「好きなものは好き、以上!」だと思いませんか?

 私は泳ぐのが好きです。趣味について話していて、「阪本さん、泳ぐことが好きな理由は何ですか?」と質問されると困ります。好きなものに理由はないのです。「プールに顔をつけて、最初に腕を水面に投げ出す瞬間の浮遊感がいいです」などともっともらしい言葉を並べますが、言葉にした途端に、うそになってしまっています。

惚れさせよう

 かつて私は「アップル」ブランドが大好きでした。マックはよくフリーズするし、訳が分からない理由でファイルが使えなくなるし、価格は高いし…。ウィンドウズのマシンの方がよほど信頼が置けて、ビジネスで使うには適しているにもかかわらず、好きでした。理由は、「アップルだから」。私の場合、創業者のスティーブ・ジョブズが好きとか、そういうものでもありませんでした。ただ、デザイン性や、「人と違う道を行くぞ!」という姿勢に惚れていたんです。だからアップルの新製品は無条件に、スペックや価格を深く検討することもなく、「出たら買う」ことにしていました。古くはパフォーマやアイマック、そしてアイフォーン、アイパッドといずれも初代マシンを持っています。

 ところがここ数年はその恋も冷めました。なんだか製品スペックばかりを説明するブランドになってしまったからです。アップルウオッチは買いませんでした。何がいいのか、さっぱり分からないので。これは温泉宿に泊まったとき、仲居さんが温泉の効能とか旅館の歴史をとうとうと説明しても「あー、来てよかった」とはならないのと似ています。説明はいらないのです。空気感やいわく言い難い魅力があれば、それで惚れるのです。言い方を変えると、「説明が必要な間は、まだ惚れ要素が足りない」といえます。何でもいいです。「うちはこれで惚れてもらおう!」という文句無しのとんがった要素。あなたのお店やブランドに、ありますか?

阪本啓一

今週の教訓
恋は理由なく始まり、
言い訳で終わる

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

「ブッダも笑う 仏教のはなし」

一億年を三分で観たらなにが映ってるんでしょうか。確実に諸行無常が映っているんですよ。諸法無我も映ってますよ。これを観れば、ずっと存在するものなんかないんだなと理解できるはずです。(本書より引用)

 著者の哲夫は私の好きな漫才コンビ「笑い飯」の1人です。たまたま書店でこの本を見つけ、哲夫って、仏教に詳しいの?と驚きました。

 実は詳しいどころではありません。血肉にしています。中でも私のお気に入りは、「この世はカレーである」説。カレールーをおたまですくい上げる。ただ、そのおたまには穴が空いていて、すくい上げたそばからポタポタ落ちている。おたまに入ったカレールーが、「あなた」だったり、「ペットのポチ」だったり、「エンパイアステートビル」だったり、隣の「ゴンザレス」だったりするわけです。そしてポタポタ落ちて、やがておたまが空になる。またルーの中からすくう。そうすると「以前のあなた」「以前のポチ」「以前のゴンザレス」なんかが混ざり合う。全が個で、個が全。面白い発想ですよね。

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