2016/01/22発行 ジャピオン848号掲載記事

共感マーケティング

第66回  世界観で統一しよう

伝統を現代につなぐ

 歌舞伎を大阪松竹座へ見に行きました。歌舞伎は日本が誇る古典芸能ですが、ただ先人の残したものをコピーするのではなく、伝統を現代につなぐ試みがなされています。たとえば今回の演目の「研辰の討たれ」では、出演の市川中車(9代目、香川照之)にちなんで「百舌が鳴いてますなあ」というセリフがあります。香川照之出演の人気ドラマ「MOZU」にひっかけているわけで、観客は思わずニヤリ、とする仕掛けです。

 歌舞伎を堪能した後、隣に目をやると、なんとも言えずいい佇まいの店があります。創業大正8(1933)年の老舗洋食レストラン「はり重」。店内に一歩入ると、懐かしい昭和なレストランのしつらえです。照明といい、壁の絵といい、テーブルクロスといい、古き良き時代の洋食屋さん。メニューも、ハンバーグ、ステーキ、コロッケ、エビフライと鉄板ものぞろい。ただ、ここは昔懐かしのレトロだけを売りにしているわけではありません。現代人の舌は肥えています。だから当然、ソース一つとっても現代風にアレンジしています。そう、この店も伝統を現代につなぐ世界観なのです。大阪松竹座と隣のはり重、二つがそろって同じ世界観ということで、顧客の頭脳にしっかり刻み込まれます。そう、世界観はこの情報過多の時代、「記憶に残る」メリットがあるのです。

一本通す

 世界観とは、あなたのビジネスを通して世界にどんなインパクトを与えたいのか、どう変えたいのか、という思いです。提供価値と言い換えても構いません。あなたの製品・サービスも大事ですが、それを支える土台としての世界観。大事なことは、店の什器、照明、音楽、内装、ドアを含めての外装、果ては看板に至るまで世界観の色を一本通すことです。どこかでほろこびがありがちなものですが、神は細部に宿る、隅々にまで気を配りましょう。

 知人がリトアニアのコンフォートホテル(www.com forthotel.lt)に感心していました。チェックインし、自室に入って、全てが同じブランドのニュアンスなのです。非常階段のエリアは一般的な業務連絡のサインがあるのかと期待(?)して行ってみたら、そこにも階段を上がる楽しいイラストが次のコピーと共に。「FUN ELEVATOR-TAKE STAIRS HAVEFUN&STAY HEALTY」ここまでされると脱帽です。

 ある日本料理店。カウンターだけの店で、ここの世界観は「鮮度良く提供します」。だから大将が料理を供してくれる際、必ず「今朝捕れたたばかりのイカです」「封を切ったばかりの日本酒です」と「◯◯ばかりの」を添えます。日本酒と和食が売りの店なのですが、「鮮度」が一本通っている…かと思うと、残念なことに一カ所ほころびがあります。それは瓶ビール。先日(1月7日)行ったときに出てきたメーカーAの瓶ビールは昨年9月製造、メーカーBの瓶には6月製造とされていました。こうなるとビールの味は確実に落ちます。鮮度を世界観とするなら、瓶ビールにも通して欲しかった。

言葉にする

 あなたの店(会社)の世界観は何でしょう。それを言葉にしましょう。そしてその世界観に基づいて、店(会社)を見回してみてください。「これは合ってる」「これは違うかもしれない」と、世界観をリトマス試験紙にしてチェックしてみるのです。これは定期的にやりましょう。お得意さまほど、世界観のズレに対して敏感です。また、新人が入ってきたとき、言葉にした世界観は行動指針になるはずです。

阪本啓一

今週の教訓
世界観は記憶に残ります

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

「妻に棲む別人」(全2巻)

妻が殺人を犯していたら私たちはどうなっていただろう。妻の多重人格は露見することなく、やってもいない殺人の罪を科せられただろう。 (本書より引用)

 著者に一本の電話。ヤミ金融から借金の督促で、奥さんにお金を貸しているという。すべて事実のノンフィクションですが、これがとんでもない展開に。奥さんの中にはカオリ、シズ、ケン、リサという複数人格が存在していて、借金はカオリとシズが奥さんの体を借りて行ったというのです!目的は経済的に追い詰め、家族を破綻させるため。多重人格は主人格が演じているのでもなんでもなく、「本当に」存在しているといいます。その道の権威、町沢静夫医師のカウンセリングを受け、治療が進むにつれ彼らは自分たちの生まれてきた理由を知り、やがて消えていきます。

 マーケティングの研究の一環として「私が私であること」を調べていく中で出会った本ですが、人間というものの不可思議さに圧倒されます。

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