2016/01/08発行 ジャピオン846号掲載記事

共感マーケティング

第64回 個人ブランドのパッケージ

村上春樹が売れるワケ

 私は村上春樹のコアなファンです。デビュー作「風の歌を聴け」を読んだ大学生の頃から、ずっとフォローしています。その私が言います。村上春樹が売れるワケはたった一つ。「村上春樹という文字が表紙カバーに印刷されているから」(笑)。

 人の心理はそういうものです。「村上春樹印」が内容を担保してくれるから「ハズレ」はなかろう。まさにブランドの役割です。村上春樹は初めてという人がランダムに選んだ1冊を手に取り、読んでみたとします。ピンとこなかった。その時どう思うか。「あれだけ多くの人に支持されている村上さんの本を面白いと思えなかった。これは本ではなく私に問題があるのだ」(笑)。あえて極端な言い方をしていますが、おおむねこんな感じでしょう。

 くだんの村上春樹は新作「ラオスにいったい何があるというんですか?」でこう書いています。くまモンについて熊本県庁に取材した後の文章です。

 「でもいずれにせよ、くまモンくんは今のところとにかく元気に増殖を続けているし、増殖するにつれてそれは、熊本県というその本来のルーツ・土壌からますます遠ざかっていくことだろう。ちょうど『ミッキーマウス』が普遍化して、もともとの『ネズミ性』を失っていったのと同じように。そう、とても複雑な仕組みを持つ世界に僕らは生きているのだ。そこではイメージがずいぶん大きな意味を持ち、実質がその後を懸命に追いかけていく」。

 これを村上春樹に置き換えると「村上春樹というイメージ」が一人歩きしているのです。実質は後付けで。誤解なきように。私は村上春樹の文学性を高く評価し、なればこそ、人生の伴侶として彼の著作をずっと傍らに置いています。

ブランドに個人ブランドをパッケージする

 強いブランドは必ず個人ブランドがパッケージされています。アップルはスティーブ・ジョブズ存命時代、最強ブランドでした。「ヴァージン」ブランドはリチャード・ブランソン、強い頃の「ソニー」は井深大&盛田昭夫、「フェイスブック」はマーク・ザッカーバーグ…。

 「ヴァージン」ブランドは音楽、エアライン、メディア、宇宙事業と一見バラバラな事業へとやみくもに進出しているように見えますが、ブランソンの「面白くない業界を面白くしようぜ!」というキャラクターで、ブランドの軸が一本通っています。だから強いブランドに育っています。

 あなたのお店や会社も、あなた自身をブランド化することでより強くなります。考えてみれば昔からそうです。「名物店長」「名物女将」「名物社長」…。

 兵庫県明石市の「うまいさかな本舗」(www.umaisakana.jp)明石好弘社長は、「ふぐてん」というニックネームで親しまれています。長く使ってきた屋号が「ふぐのてんだい」で、ふぐを主力商品としてきたことから来ています。明石社長は、全国の漁港や漁師さんを回っておいしい魚や海産物を発見してはお客さんに紹介しています。淡路島で漁師さんが手採りするおいしいわかめを発見し、「水深2mの奇跡」と題してブログなどで発信。また、彼の幅広いネットワークで伝え続け、サンプルを配布しまくっています。もちろんわかめはおいしく、天ぷらにできる強さを持っている素晴らしい商品ですが、「『あの』ふぐてんが勧めるのなら」というパッケージが後押ししていることは否めません。「プリンセスわかめ」という秀逸なネーミングも人の気持ちにフックして人気商品に育っています。

 そうです。大切なことは「あの」がつくかどうか。店や会社、商品ブランドと一緒に、あなた自身をブランド化しましょう。

阪本啓一

今週の教訓
「あの」がつくと強いです

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

ラオスにいったい 何があるというんですか?

いちばん最初のくまモン認可商品はどんなものか? 仏壇だ。 くまモン仏壇? そのとおり。 (著者が熊本県庁のくまモン担当に取材したやりとり。本書より引用)

 村上春樹の紀行文のファンです。特に「遠い太鼓」はニューヨークに渡って起業したわが人生で最も不安な時期、すがるように読んだ覚えがあります。何も起業やビジネスのヒントが書かれているわけでもなく、村上春樹がイタリア、ギリシャに住んだ頃の話なのですが、異国で暮らす、というモチーフ当時の自分に重ねていたのでしょう。本書はそれから24年後、当時住んでいたギリシャの島を再訪する話も含んでいます。村上春樹の視点で見る外国はもちろん、彼のレンズを通して描かれたもので、村上印の景色をたどる幸せは上手に表現できないけれど、すてきなのです。おすすめは、この本を持って、どこか水辺(川でも海でも噴水のそばでも)に腰掛け、半日ゆっくりと楽しむことです。そんなぜいたくを、自分に許してあげましょう。

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