2015/12/18発行 ジャピオン844号掲載記事

共感マーケティング

第62回 ベストマッチング

胸キュンファンタジーかと思ったら

 昨年のちょうど今頃、映画「ベイマックス」を観に家族と出掛けました。テレビCMやポスターでは、ふわふわのロボットが子供を抱きしめる絵が前面に出ているので、てっきり胸キュンの感動ものファンタジーだと思い、期待して映画館の席に着きました。映画が始まると、実はバリバリの戦隊ヒーローものでした。戦隊ヒーローものは苦手なので、映画館を出たとき、全員がっかりでした。あとで分かったのですが、原タイトルは「BIG HERO 6」で、アメリカ向けポスターになるとはっきり戦隊ヒーローものと分かるものでした。こうなると日本向け宣伝を意図的に胸キュンファンタジーと見せたわけで、このミスマッチは不本意なざらざら感が残りました。映画に罪はありません。伝え方が問題なのです。商売で大事なことはベストマッチングのはずなのに。

客の声を聞かない

 ヒールアンドトゥ(www.rakuten.ne.jp/gold/heelandoe)は開店以来、セールやポイントもやらず、濃いファンの熱い支持を得ています。自分たちがセレクトした商品を、自分たちの世界観、テイストに共感してくれるお客さんだけに向けて売っています。だからお客さんの声に耳を貸しません。一般的に「顧客に密着する」はビジネスで善とされていますが、お客さんの声にしっかり耳を傾けるだけが密着ではありません。モノがあふれ、極端な話、水や食料など日用品以外何も買わなくても何も困らない現代、お客さんが求めているのは「これこれ、こういうの、待ってたんだ!」という商品とのわくわくする出会いです。ヒールアンドトゥの感性に共感した人がお客さん。共感してくれない人は追わない。現実的に世の中全員がお客さんになるはずがない中、この姿勢はとても大切です。欲しい人と商品とのベストマッチング。店の役割はまさにここにあります。そのために、「不幸な出会い」がないよう、ウェブサイトでしっかり説明します。ある靴のブランドなど、「ネット販売には不向きな靴です」とはっきり言っています。

アナログな靴だか

 そのブランド「NU」は実店舗(広島市)で2008年から扱っており、パンプスだけで12足も持っているお客さんがいるくらいの人気。NUしか履きたくない、という濃いお客さんもいます。全て手作りで、人の手のぬくもりを感じるアナログな靴だから、ネット販売には向いていないと、楽天でも扱う気はなかったそうです。いわゆるデジタルプロダクト、工場で大量生産されて、左右均一、シワも色ムラもない製品であればネット販売に向いています。しかし、この靴は実際に履いてフィット感を味わってみて初めて分かる。だからネットでは売らない、売りたくない。店舗の宝物として大切に売ろうと。ところがファンのお客さんの熱い声を聞いているうちに、もっと多くの人に出会っていただきたいと思うようになり、メーカーから独占販売許可をもらって、ネット販売に踏み切ったそうです。ただし、手作りだから一品ずつ色や形、微妙なしわなどが違いますよ、それでもいいですね、とサイトにくどいほど説明して。この姿勢が、ベストマッチングを生み出し、お客さんの共感を得ているのです。すぐに今季分は売り切れてしまいました。

 お客さんに全方位で向き合うことは無理だし、それではブランドが立ちません。何をやり、何をやらないかを決め、それらをしっかり事前に伝える。これがベストマッチングの秘訣(ひけつ)です。愛されるブランドになるために。

阪本啓一

今週の教訓
愛されるブランドのために

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

里山を創生する「デザイン的思考」

銀行からは100%失敗すると言われ融資を引き上げられるも、デザイン的思考を使って人里離れた山奥に想像もつかない異空間を創出、開業後わずか3ヶ月で客室稼働率9割を超えた。(本書より引用)

 著者は雑誌「自遊人」発行人。実は10年前から新潟県南魚沼に本社を移していて、そのご縁で築150年の古民家を利用した宿の経営をすることになりました。場所が豪雪地帯なので断熱工事に、古民家や既存の宿泊施設のリノベーションにと費用がかさみ、途中で銀行が融資を引き上げる事件も起こりました。もちろん広告宣伝費もありません。

 しかしながら宿そのものをメディアとしてとらえ、共感の連鎖が起きるようにコンセプトをくっきりさせれば必ずお客さんは来てくれると信じ、3億の借金にもめげず前進した物語。サイトを見れば予約状況が分かりますが、すでに来年11月もほぼ満室の状態。きちんとコンセプトを明確にして、何をやり、何はできないのかベストマッチングを狙った成果ですね。

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