2015/12/11発行 ジャピオン843号掲載記事

共感マーケティング

第61回 ないものをつくろう

ないものをつくろう

 商売はないものをつくる営みです。すでにあるものに「参入」すると、お客さんは価格、品質、接客その他で比較します。実はこの比較(コンペア)ストレス、経営者にとって相当大きいものです。これに耐えられず、多くの人のやることは、「他店より安く」。しかし、他店とは財務内容も違うし、そもそも価格はブランドを表現する大切な要素、簡単に値下げしてはこれまで積み上げてきた信頼や信用を台無しにしてしまうかもしれません。やはり「+1」ではなく、「1」、ほかにないものをつくりましょう。

 コピー機の営業マンが、オフィスにうず高く積み上げられた書類を見て、「何とかならないか」と思いました。重要機密も書かれている書類の後始末は困っている人が多いはずであると。そこで、書類の廃棄方法についてあれこれ試行錯誤しました。薬品で文字を消去する、書類を窒素で高速冷却し、力を加えて粉砕する、粘土のように固めてしまって廃棄する、紙ごと水に溶かしてしまう…思案に明け暮れている頃、昼食に立ち寄った立ち食いそば屋で、うどんがにょろにょろ出てくる製麺機を見てひらめいたのです。「うどんと同じように、紙も細長い紙片にしてしまえば何が書かれてあったかがわからなくなる!」これがシュレッダーの誕生した瞬間です。明光商会創業者高木禮二氏のエピソードです。

帰国子女作戦

 まあ、シュレッダーのような立派な発明でなくても、視点を変えるだけでないものをつくることができます。私自身の例でお話ししましょう。会社を退職して、独立・起業する際、世の中にコンサルタントは星の数ほどいる。私より賢い人も、星の数ほどいるでしょう。しかし、お客さんに選ばれるためには「賢さではなく、珍しさではないか?」と思ったのです。賢さは比較対象です。しかし、珍しさ「1」があれば、それだけで目立てます。浮かんだのが「帰国子女」という言葉です。なんだか特別感があります(笑)。そこで、ニューヨークで起業することにしました。普段はニューヨークにいて、日本には「出張」で来る。マッキンゼーとか外資系会社に勤務している人はともかく、自分で旗立ててやってる独立系コンサルタントにそういう人はいませんでした。しかもニューヨークの住所はマンハッタンでなければならない、212の電話番号が必須。家賃と生活費の重力に必死に耐えました(笑)。いまはブルックリンがおしゃれになっていますが、2000年当時はマンハッタンが大事に思えたのです。

 メールマガジンを始めたのも1995年、まだ会社員時代でした。同僚の3人に同報メールで送っていました。その後まぐまぐなどのメールマガジン配信サービスを利用したりパソコン通信内のコミュニティーに連載したりして次第に読者が増えていきましたが、サラリーマンでありながら本業(建材営業)とはまったく関係ない分野(マーケティング)で発信している人はいませんでした。

 私塾「阪本塾」も、まだ本を2、3冊しか出してない頃に始めました。「阪本ってだれ?」の知名度ゼロの頃ですが、3回、各2時間で75000円という破格の高価格をつけました。意識の高い人に来ていただきたかったからですが、世の中面白いもので、それでも参加の手をあげてくれる人がいました。911テロをきっかけに日本へ戻りましたが、その時も神奈川県の葉山に本社を置きました。海の家、湘南な場所にあるコンサルティング会社というだけで「1」だからです。

 「+1」は比較ストレスに見舞われます。ないものをつくる「1」の姿勢で、商売を楽しみましょう

阪本啓一

今週の教訓
商売は「+1」ではなく
「1」をつくることです

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

TVディレクターの演出術

奇跡的なシーンは、入念な準備があってこそ、撮れるもの(本書より引用)

 著者はテレビ東京制作プロデューサー・ディレクター・カメラマン。「TVチャンピオン」「新説!? 日本ミステリー」「空から日本を見てみよう」などの作品のディレクターです。ご存知のように、テレビ東京は、赤坂やお台場にある局と違って制作予算に恵まれていません。だから華やかなスターで画面をつくることができない。できないから知恵と汗で勝負。コツコツ自分の足で現場に出向いてネタを探す。また、自分でもカメラを回せるからこそ、奇跡の瞬間に出会うことができる。テレビの仕事をしていなくても、検索の方法、取材対象との距離感など、どんな仕事をしている人にも役立つクリエーティブなヒントが満載。

 「だれもやっていないことを探す、だれもやっていないからこそやる」姿勢は、商売にも必須ですね。

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