2015/12/04発行 ジャピオン842号掲載記事

共感マーケティング

第60回 「感染」に最適な場所

共感のウイルス

 モノやサービスを売るのが商売ですが、ただ「買ってください」とお願いしているようでは長続きしません。1回は買ってくれても、2回、3回のリピート購買にはつながらないでしょう。あくまでお客さんが自分から「欲しい!」と思って買ってくれないと。

 そこで本コラムタイトルにあるように、「共感」が必要になってきます。お客さんが感じた共感は、必ず自分の近い人に伝えてシェアします。「すっごくおいしいケーキの店を見つけたんだ!」「あの映画は、おすすめだよ!」という具合に。フェイスブックやツイッターなどSNSが普及していますから、みんな自分の「ともだち」の投稿を参考にしています。ここ最近では映画「マイ・インターン」(アン・ハサウェイ&ロバート・デ・ニーロ主演)、本「『悩み』と向き合える女性は、うまくいく」(文美月さん著書)などが私のオススメ投稿によって、周囲のコミュニティー内でヒットしました。日常使うバスタオル、ボールペン、スロージョギング用のシューズ、体幹トレーニングの習慣…など、見渡せばモノに限らず、トレーニング習慣に至るまで、フェイスブックの仲間の影響を受けています。ベースに共感があり、仲間の顔を知っているので、コマーシャルや広告より彼らの方が信頼できるからです。共感性の高いモノ・サービスの持っている「ベネフィット=いいこと」はまるでウイルスのように、人から人へ感染します。

ウイルスをどこに落とすか

  マーケティングする立場に立ってみると、大事なポイントは二つあります。第1に、モノ・サービスへ共感に足る魅力ある「いいこと」を提供できる価値をもたせること。これで共感ウイルスが生まれます。第2に、共感ウイルスを投下する場所をよく選定する。マーケティングに使える経営資源(費用、人員、時間、社内経験など)は限られていますので、最も効果的な場所にウイルスを伝える必要があります。

ネスレはたった3%しかない市場を攻めた

 ネスレは家庭用コーヒー市場で70%のシェアを誇っていましたが、家庭外コーヒー市場ではわずか3%しかありませんでした。70%をなんとかするのではなく、家庭外のネスカフェがほとんど飲まれていない市場をターゲットにした方がはるかに効率的という考えで、ネスカフェアンバサダーというビジネスモデルを考えました。アンバサダーになる人がネスレ日本に申し込み、ネスレ日本にアンバサダーとして認定されると、コーヒーマシンが無料でオフィスに届きます。コーヒーを飲みたい人が一杯30円くらいで買います。アンバサダーが飲んだ人から代金を取りまとめます。「このコーヒー、おいしいよ」という共感がオフィスに広まって、さらに飲む人が増えます。

 ネスレ日本は、「オフィス」という場所を「ネスレアンバサダー」という共感ウイルスの投下場所として選んだのです。このマーケティングは的を射たようで、サービス開始から3年で18万人のアンバサダーが日本全国のオフィスにいて、毎日200万人がネスカフェを飲んでいます。アンバサダーはネスレ日本の社員ではないのに、ネスカフェを広める、文字通り「アンバサダー」というわけです。

 ご自分を振り返ってもお分かりいただけるように、人は家族、友人、ネットともだちなど、近い人からのオススメで購買の意思決定しています。共感ウイルスをどこに投下するか、その観点でマーケティングを考えてみましょう。

阪本啓一

今週の教訓
マーケティングとは
共感のウィルス作りです

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

ネスレの稼ぐ仕組み

そう遠くない時期に、アンバサダーは100万人に届くと思います。アンバサダーは、新しい形のネスレの営業パーソンという存在になりつつあるのです。(本書より引用)

 ネスレ日本は製品だけではなく、生活者への「届け方」、つまり、マーケティングの方法も進化させています。有名なキットカットの受験生応援をはじめ、オフィスにコーヒーマシンを無料提供し、アンバサダーがコーヒーを代表して購入、飲んだ同僚からお金をいただくというネスカフェアンバサダーの仕組み、そして、テレビコマーシャルの代わりにドラマを制作し、ネットで見せるネスレシアター。そのような企業姿勢も生活者は見ています。そして共感して、応援したくなるのです。

 著者はネスレ日本の社長であり、自ら実践している競合他社を全く気にしない稼ぐ仕組みが、五つ紹介されています。「顧客は誰?」「問題はどこ?」と常に考える、本質を見極める、イノベーティブな人を育てる、常識を打ち破る…など、刺激に満ちた一冊。

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