2015/11/27発行 ジャピオン841号掲載記事

共感マーケティング

第59回 「成長」の再定義

お客が増えると嫌な顔をする

 ゴルフの帰り、仲間で打ち上げを兼ねた会食をしようと、あるレストランを予約しました。車をいったん家に置いてから集合なので、バラバラに集まってきます。集まりのことを聞きつけて、急きょ参加する人も出てきました。幹事の私は集合時間より先に到着。店に入るとお客さんは3人連れの一組だけで、閑散とした空気。真ん中でスタッフ4人が立ち話をしています。

 予約している旨を話すと、テーブルを示されました。そして人数があと2~3人増えるかもしれないと告げると、テーブル担当のスタッフが困惑した顔で後ろに立つリーダーらしき人に顔を向けます。受けたリーダー、苦い顔でいわく、「人数が確定するのは何時ごろですか」私「…来てみないと分からないのです」「できるだけ早めにお知らせいただけますか」「分かりました。すみません」

 …ってどうしてこんなに空いているし、お客さんが「減る」ならともかく「増える」、つまり店にとってはいいことなのに、そんな苦い顔するのだろう、と胸がざらつきました。

 思えばこの店はチェーン店で、他の店に行ったときも接客がイマイチ、しかも出てきたビールが問題だったことを思い出したのです。というのも、飲み放題メニューで供されるビールがハートランドの瓶ビールなのですが、なぜかみんな濡れている。飲んでみるとハートランドの味とは言えない。真相は分かりませんが、どうも中身は発泡酒ではないかとみんなで疑いました。今回もハートランドなので、「瓶だけで、中身は別」なのかもしれません。まあ、それは問わないことにしました。

 みんなが集合し、この対応について話し合っていたら(全員勉強熱心な経営者なので、どんなことでもケーススタディーにしてしまうのです)、中の一人が「実はここの社長とは昔からの知り合いなんだ」と話し始めました。聞けば、最初、資金が乏しく、立ち上げメンバー3人で店舗の壁のペンキを塗ったりしたそうです。「その頃が一番楽しかっただろうね」と私が言うと、その場にいるみんなが頷きました。大抵の商売、広げると創業時の楽しさが消えます。システムが必要になるし、システムが人を「管理」し始めるからです。

楽しさを提供できる範囲が事業の最適サイズ

 創業時、お金がなくて、お客さんが一人増え、二人増え、お得意さんができたときのワクワクな気分のとき、今回のような対応をしたでしょうか。もちろん、それはないでしょう。苦い顔したリーダーは、「システムが乱れる」ことが困るからなのです。広いフロアにお客さんよりスタッフの方が多くても、分からなくなっているのです。私たち経営者は、「他山の石」とするため、次のように学びを整理しました。第一に「事業はお客さんに喜んでもらうためにある」、第二に「喜びは自分たちも感じたい。感じられないだけの規模になったら事業を見直すべきである」のシンプルな二つです。

 アメリカ、日本をはじめ、先進国の経済成長はもはや望めません。エネルギーや資源など、さまざまな指標が物語っています。だからこそ、事業の最適なサイズを知って経営することは重要です。そしてそれは「成長の再定義」を求められているのです。右肩上がりはあり得ません。何を喜びとするのか、何がうれしいか。時間軸を半期など短いタームに限定せず、10年、30年、100年と、ロングタームで考える姿勢も必要でしょう。社会との関わりも含め、「うちにとっての『成長』とは?」について、一度じっくり考えてみませんか?

阪本啓一

今週の教訓
事業の最適なサイズとは?

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

由布院の小さな奇跡

「道を狭くすればいいんだ。そうすれば車が入れなくなる。コンクリートなどの柵をするのではなく、草花や木々を植えればいいんだよ」(小林秀雄が玉の湯にアドバイスした言葉)(本書より引用)

 経済成長なき時代に事業成長の再定義をするにあたり、由布院のあり方はとても参考になります。本書は、「由布院」ブランドの根っこの哲学を形成した三人、中谷健太郎氏、溝口薫平氏、志手康二氏の業績をたどりながら、彼らと共に汗を流した由布院の人たちを描いていきます。

 自分たちの時代でできなければ、子供の代にできればいい、という思想。「何もないということが売り」「農業と共にある自然」「手作りイベント」「全員参加の巻き込み」「発信の方法」…会社経営に、ヒント満載です。 由布院がモデルにしたのはドイツ・バーデンヴァイラーの町でした。「町が深夜と昼下がりの昼寝の車両乗り入れ禁止を決めた」町です。イケイケドンドンの経済成長とはそぐわないあり方。勉強になりますよ。

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