2015/11/20発行 ジャピオン840号掲載記事

共感マーケティング

第58回 狭く・濃く

「お花を贈る」をリ・デザイン

誰かにお花を贈るとき、お花屋さんとのやり取りでよくあるのが「では、ご予算は?」から始まる会話です。そして次はお客さんが「じゃ、5000円でアレンジをお願いします。お花はお任せします」と答えて、ほぼ終わり。

神戸のGROUND(www.ground.ne.jp)は、そういう、「予算から始まるお花のギフト」をリ・デザインしたいと考えました。「5000円でアレンジをお願いします。お花はお任せします」。そこにあるのは予算だけ、お花を贈る相手への想いは混じっていません。もちろんそんなことはないでしょうが、「まあ、送っておけばいいだろう」という「処理」や「義務」という本音が浮かびます。GROUNDはそのような「義務のギフト」は他のお花屋さんにお任せすればいいと考え、自分たちにしかできないギフトをデザインしました。

三宮駅前にサロンを開き、お客さんに来訪していただきます。サロンは「オーガニック」をコンセプトにデザインされ、音楽が静かに流れる心地よい空間。私は、結婚記念日に妻へサプライズで花を贈ろうと思い、相談に乗ってもらいました。

どんなお花がお好きですか?

フラワーアーティストの大谷裕佳さんが、贈りたい相手についてヒアリングしてくれます。

「奥さまはどんなお花がお好きですか?」分かりません。「お花の名前が難しいかもしれませんね。どんな色のお花がお好きでしょう?」分かりません(汗)「分かりました(苦笑)。ご自宅にはお花は?」多いです。「どんな花瓶をお使いでしょう?」すみません、覚えてません。

いやはや、誠に赤面の至りです。妻とは結婚して31年、付き合い始めて34年になりますが、好きな花さえ知らない。毎日自宅で見ているはずなのに、どんな花瓶が使われているかさえ、記憶にない。「気づく力」とか言っているのに、これじゃ、全くダメです。

そこで、帰宅したら「さりげなく」どんな花が好きかを聞いて、自宅の花を花瓶が分かるよう写真に撮って、裕佳さんへ送ることになりました。「さりげなく」が下手くそな私の質問に、妻は察したらしく、ネットでお好みの写真の画像を取り込み、私まで転送してくれました(笑)。

さて、結婚記念日当日、滞在するホテルの部屋に入ったら、花瓶にお花のアレンジが。妻はお気に入りのお花や色で、とても喜んでくれました。

聞けば、GROUNDの大谷耕一郎さんがわざわざ神戸から手持ちで運んでくださったとの由。感激です。

狭く・濃く

GROUNDは、「よく知っている相手へ丁寧にお花を贈りたい」人だけを顧客にしたいと考えています。当然、数は限られてくるかもしれません。しかし、それこそが現代のビジネスのあり方なのです。現代の生活者は一人一人のインタレスト(興味・関心)が細分化されています。私はこれを「マイクロ・インタレスト」と呼んでいますが、だからこそ、「国民的ヒット」や「全米が泣いた」(笑)なんていうことはもはや起こり得ません。

「丁寧なお花のギフト」を支持してくれるお客さんは必ず存在します。「ただお花を義務的に送ればいい」というお客さんとは一線を画すGROUNDのマーケティング戦略は、皆さんにも参考になるのではないでしょうか。

狭く・濃く、狙いを定めましょう。「広く網を投げる」から、「狭くて濃いお客さんを深堀りしていく」マーケティングへ。

阪本啓一

今週の教訓
深堀りこそが、面白い

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

友達の数は何人?

ひとりの人間が関係を結べるのは150人までということで、これを謹んでダンバー数と呼ばせてもらう。 (本書より引用)

 ロビン・ダンバーはオックスフォード大学認知・進化人類学研究所所長・進化人類学教授。SNSを利用したマーケティングや私の提唱するマイクロ・インタレストにフォーカスするフォーカス・マーケティングでは、「150人」という数字を重要視します。

 確かに私はフェイスブックでの友達の数が1800人を超えていますが、頻繁に会っているのは150人もいません。家族を除けば、せいぜい10人がいいところです。

 今後ますます狭く、濃いインタレストを相手にするビジネスこそが主流になると思います。広く、浅い物販はアマゾンに任せればいいのです。倉庫の広さや物流能力からして、アマゾンにはかないません。「そんなの、どこで買うの?」と言われるようなものが、商売になる時代です。

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