2015/11/06発行 ジャピオン838号掲載記事

共感マーケティング

第56回 リ・デザイン


提供価値の再定義

 
 「ブランドのリ・デザイン」を重要テーマとして研究しています。「リ・デザイン」とは「ブランドの提供する価値を見直し、新たに定義し直す」ことです。なぜ必要かというと、理由は二つあります。第一に、時代の流れが速く、あっという間にブランドが陳腐化してしまうから、自社(店)の事業を製品・サービスで定義していると、たちまち取り残されてしまうからなのです。

 第二に、物体移動だけでビジネスが成り立った時代は終わったからです。アマゾンはますますロボットとしての性能に磨きがかかり、ドアに物体を届ける技に磨きがかかっています。いわば「どこでもドア」です。アマゾンと同じ土俵で戦っても勝てる見込みはありません。そうすると物体ではなく、顧客の体験に焦点を当てることが、アマゾンと土俵をずらす方法です。ブランド体験を考えるために、提供価値を見直すのです。


目の付け所を変える

 具体的な例で紹介します。ピルパック(www.pillpac
k.com
)は処方箋薬局のリ・デザインです。処方箋薬局に行くのではなく、処方箋薬局が玄関にやって来るサービスです。「薬を欠かしてはいけない重篤な患者ほど、処方箋薬局に行けない」というジレンマを解消するために生まれたサービスで、「月曜日朝8時にこのパック内の薬を飲んでください」と、服用するべき薬を一つにパッケージして2週間分届けてくれます。

 ロンドンに本社を置く保険会社アビバはスマートフォン専用アプリを開発し、運転席の横に置いたスマホで、ドライバーの運転テクニックを評価します。ハンドルさばきやアクセル、ブレーキについて点数化します。そして、運転テクニック評価の高いドライバーの自動車保険は安くするのです。これは保険の納得性のリ・デザインと言えます。

 マツダ・ズーム・ズーム・スタジアム広島はカップル席やグループ席、バーベキューを楽しみながら観戦できる席、360度球場を回遊できる通路、子供が遊べる施設など、数々の工夫で野球場をリ・デザインしました。おかげで、カープが勝っても負けても観客は押し寄せ、観客動員数は4位(1位読売ジャイアンツ、2位阪神タイガース、3位福岡ソフトバンクホークス)、今季は210万人を超える勢いです。私も二度行きましたが、あるときなど、一回表で相手にボコボコに打たれ、「まるで草野球じゃのー」という声も聞こえる中、それでもみんなビールを飲んだりしながら、カープについて語り合って楽しんでいました。カープファンがカープを愛し、楽しむためのテーマパークになっているのです。

 新潟のプラニング瑞穂(www.p-mizuho.com)は、「軍手」を「ノベルティーに最適なカラフルグローブ」とリ・デザインしました。工場の機械も真っ赤に塗装、スタッフの制服や製品カタログをおしゃれにしました。カタログのターゲットを、「ノベルティーグッズを探している広告代理店担当者」と絞り、簡単には捨てられない紙質とデザインに変換。その結果、230%超えの受注を獲得し、工場は休みなしのうれしい悲鳴を上げています。お金は、かかっていません。工場の機械を新たに導入したわけではなく、ただ塗っただけです(笑)。そう、リ・デザインは「目の付け所を変える」だけでできるのです。



価値を蒸留する

 自社が提供している価値を、製品・サービスから離れて、蒸留してみましょう。コツは、名詞ではなく動詞で考えること。軍手なら、「軍手という種類の手袋」とするのではなく、「カラフルアイテムで気分を上げる」としています。

阪本啓一

今週の教訓
動詞化してみましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

歌舞伎四百〇〇年の言葉

「貧苦に喘いでいるとき、金銀なら盗むこともできる。道に落ちていることもあるかもしれない。だが『芸』ばかりは盗もうと思っても、拾いたいと願ってもどうにもなりゃあしない。」初代坂田藤十郎(1647- 1709)

 著者は歌舞伎で「大向こう」をやっておられます。ほら、舞台に「中村屋!」と大声で声援を送る人です。あれはタイミングが難しい。よくよく芝居の中身を知っていないと、舞台を壊してしまいます。歌舞伎の観劇数は年間100日以上、通算2000回を超えるといいますから、それだけの経験あってのことなんですね。かつ、歌舞伎役者の芸談(演劇論や人生哲学を語ったもの)にも造詣が深い。

 そんな著者が歌舞伎400年の歴史で残された芸談を、三つのテーマ別にまとめてくれています。商売にも通じる言葉の数々が胸に染み込んできます。歌舞伎は市川染五郎や中村勘九郎が取り組んだ歌舞伎NEXT「阿弖流為」に見られるように、進化し続けています。それも先人の土台の上にあってこそ。土台を、味わってみましょう。

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