2015/10/23発行 ジャピオン836号掲載記事

共感マーケティング

第54回 抽象的な議論を大切に


カチリとこない

 店長が悩んでいます。「どうも現場のスタッフの気持ちがそろわない。やらないといけない業務はみんなきちんとするのだけど、それ以上にならない。朝礼は毎朝やっているし、職場の空気もとても良い。なのに、いまいち、みんなの気持ちがかみ合っていない。『カチリ』という音が聞こえない」
 
 つまり、「悪くはないけど、良くもない」という生ぬるい状態なのだとか。「どうすればいいでしょう」と相談されました。私の答えは、次のようなものです。
 
 「普段、業務連絡以外の話題で話をほとんどしていないのではないですか?チーム内コミュニケーションの深みや広がりは、業務連絡からは生まれません。なぜなら、業務連絡はスマートフォンでいうアプリみたいなもので、大事なのはそのアプリが走る土台、OSなんです。OSは、言い換えれば『何を大切に思うか』。それが共有されていないと、上滑りというか、上辺だけの話に終わってしまいます」
 
 店長「では、具体的に、どうすればいいでしょうか」
 私「抽象的な議論をする時間を取ってください」
 
 抽象的な議論とは、「なぜ私たちは働くのか」や「幸せとは?」という問いについて議論することです。店長は「店の売り上げ目標とかについての議論はしなくて大丈夫ですか?」と心配そうでしたが、目標について議論して達成できるなら世話ありません(笑)。それより比重を置きたいのは、「人として」の部分。組織ですから、当然職階の上下はありますが、実はお客さんの前では意味がありません。重要なことはお客さんへの提供価値であり、提供価値の前にチームメンバー全員平等なのです。

 レストランの接客で鼻白むのは、店のスタッフの職階上下関係が透けて見えたときです。私たちゲストには全く関係ないのに、「上」の人がフロアの若いスタッフに威張って命令したりしていたら、いくら私たち客の前での笑顔が良くても、違うと思ってしまいます。


視点・視角・視座

 そのイタリアンレストランは、いつも満員です。女子比率が高い事実が、料理のおいしさ、コストパフォーマンスの良さを証明しています。もちろん料理がおいしくて、料金以上の価値を感じるのが人気の秘密ですが、それだけではないのです。それは、フロア担当の「三つの視(視点・視角・視座)」が魅力的だからです。
 
 視点はどこに目をつけるか。店は現在、ランチタイム。つまり、来店しているゲストはほぼみんな、時間制限の中で召し上がっている。だからタイムキープが視点の最優先にくるのです。料理を待たせてはいけない。ゲストは全員AランチかBランチを食べています。前菜、メーン、デザートで、Bランチはメーンが魚と肉の二種類。テーブル1のゲストはランチ工程のどこにいるか。テーブル2の皿を引きながら、テーブル1の上を見ています。つまり、両方のテーブルを視野に入れている。この広い視角が大事です。そしてテーブル1と2と3のゲストそれぞれ、いま大事にしなければならない工程は違う。それぞれのゲストの立場になりきって考える(視座)。この、視点と視角と視座はライブな現場ではいちいちスタッフ相互で話し合う暇なんかありません。
 
 このレストランは、朝、仕込みや掃除をしながら、スタッフ5人大声で、「私たちが地域に貢献できること」「働く喜び」「お客さんからいただいた感動」などの話題について話し合っているのです。この抽象的な議論があればこそ、視点・視角・視座を共有できているのです。
 
 社内で抽象的な議論を、しましょう。

阪本啓一

今週の教訓
遠回りのようで、近道です

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

すかたん

仕事いうもんは片づけるもんとちゃいます。どない小さなことでも、取り組んだ物事の質をちょっとでも上げてこそ仕事や。 (本書より引用)

 チャキチャキの江戸っ子であるヒロイン・知里が訳あって大坂で住むことになり、老舗の大店(おおだな)の女中として働き始めます。一番最初のセリフが「大坂なんて、大っ嫌いっ」だから面白い。大坂弁や商家生活のしきたりの違いに戸惑いながらも、次第に天下の台所の「うまいもん」に目覚めていく知里。そしてやはりそこにロマンスがなければ面白くありません。奉公先の若旦那とのちぐはぐな仲がどうやって恋に発展するのか?それと同時に、ヒロインと若旦那が巻き込まれる事件は、商売と商人(あきんど)のあり方について考えさせられるケーススタディーになっています。
 旧態依然とした業界の空気に立ち向かう若旦那の後ろ姿にも、きっと声援を送りたくなるに違いありません。一気呵成(かせい)に読めてしまう面白さ。

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