2015/10/02発行 ジャピオン833号掲載記事

共感マーケティング

第51回 空気で売る


空気

 宝塚歌劇ファンは熱い。「ヅカヲタ」と呼ばれる彼女たちは早朝から劇場へ駆け付け、スターの「入り待ち」をします。それも「ベテランファン」が決めた暗黙のルールがあって、きれいに、整然と列を作って並びます。マチネーを観劇したのちは、興奮覚めやらぬ表情で語り合いながら、近所を散策します。そして夜は宝塚ホテルでファンミーティングに参加。ファンミーティングというのは、各組スターのファンたちが自主運営するクラブです。トップスターになると1000人も集まります。参加費が8500円ですから、1回だけで850万円の売り上げに!ちなみに、ファンミーティングには宝塚歌劇団自体は一切関与しません。あくまでファンの自主的な運営です。とはいえ、系列の宝塚ホテル宴会場は週末になるとファンミーティングで満杯になるそうですから、確実に売り上げに貢献していますよね。「入り待ち」の行列を観察していると、「空気」ができています。「私たち、仲間!」とでも呼びたくなる空気。

 アップルストアは世界に430店舗あり、年間4億人が訪れます。アップル製品はネットで簡単に買えるにもかかわらず、それだけ多くの人を集めるのは、アップルストアを満たす「空気」に触れたいからなのです。同じブランドを愛する仲間同士集う空気。「アップルいいよねー」と言葉にこそしないまでも、「同志」とでも呼ぶべき空気。

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや東京ディズニーリゾートのようなテーマパークにも「空気」があります。「思いっきり楽しもう! 日常生活はちょっと横に置いて楽しもうよ!」という。だからお土産ショップは満員で、レストランも長蛇の列です。「空気に酔って」買いたい気持ちにスイッチが入るんですね。ティーパーティー効果です。

 そう、この空気が、いまのビジネスではとても大事なのです。お客さんは店の空気に引かれて来店し、空気に影響されて買い物します。ブランド論でいうと、「ブランドの空気を構成する部品になりたい」「部品になっていることがうれしい」という顧客心理です。


部品願望

 日本ではスターバックスのテラス席でMacBook Airを広げ、仕事している人が多くいます。彼らの深層心理には「スタバでマック、仕事できるオレ、どや!」というドヤリングがあります。「スタバ」ブランドと「マック」ブランドを形成している部品になることで充足感があるのです。これを、「ブランドの部品願望」と呼びます。お客さんに「部品願望」を持ってもらうこと、これがお店のブランディングの目的です。昔からそこが分かっていたから、百貨店はきれいな包装紙を用意しました。「高島屋の包装紙をご覧いただきますと分かりますように、私はあなたをとてもリスペクトしております」と、お中元などの包装紙を通じて贈る相手への敬意や感謝を表現したのです。この時、高島屋の包装紙には自分が部品として組み込まれています。「数ある店の中から安物ではなく、高島屋ブランドを選択した私、どや! あなたをここまでリスペクトしているのがこれで分かるでしょう?」というドヤリング心理です。これも「ギフト」という行為に「リスペクト」という空気をまとわせる仕掛けなのです。

 ニューヨークで買い物して残念だったのは、たいていのお店の包装が、安っぽいビニール袋だったこと(現在は事情が違うかもしれませんが)。部品願望や空気を作るために、包装はとても重要です。

 空気を、作りましょう。空気で、人は買う気のスイッチが入りますから。

阪本啓一

今週の教訓
「参加したくなる空気」作りをしましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

だから、生きる。

「僕は妻を愛している。子供たちを愛している。だから、生きる。」 (本書より引用)

 つんく♂やシャ乱Qの音楽は好みではなく、モーニング娘。は社会現象として興味深く観察していましたが、距離を置いていました。今年4月の近畿大学入学式での「無言」の祝辞がネットでニュースになったこともあり、注目するようになりました。

 つんく♂は咽頭がんで声帯を全摘出しました。歌手、音楽プロデューサーにとって、職業上の危機です。本書はその葛藤や恐怖に家族と力を合わせて立ち向かうドキュメンタリー。口語体の文章につんく♂の飾らない気持ちがストレートに出ています。「もう、ここまできて、飾ってもしゃーない」という悟りでしょうか。ミリオンセラーを連発した音楽家としてのつんく♂の人生は、これから新しいドアを開きます。そしてこのドアこそが、本当のドアなのかもしれない、そう感じました。

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