2015/09/18発行 ジャピオン831号掲載記事

共感マーケティング

第49回 リトルプレスを作ろう


世界観はブランドに必須

 世界観とは、「あなたのビジネスを通じて、世界にどんなインパクトを与えたいのか」「世界をどう変えたいのか」という「思い」です。世界観はブランドにとって決定的に重要です。世界観を持つことによるメリットには三つあります。

 第一に、メンバーへのメリット。メンバーに対して、ブランドがどこへ向かおうとしているのか、何の価値で社会に貢献しようとしているのか、何をやり、何をやらないかをはっきりさせて共有することができます。

 第二に、顧客へのメリット。世界観はファンを作ってくれます。アップルに強烈な信者が絶えず、世界430店舗あるアップルストアに年間4億人が「巡礼」しに来るのは、個々の製品の魅力ももちろんですが、「クールなデザインとサプライズ」という世界観に引き寄せられるからです。

 第三に、社会へのメリット。顧客であっていいはずなのに、そうではない人たち、すなわちノンカスタマーへの認知を高め、顧客化の可能性を高められるからです。製品・サービスの名前は忘れても、「これこれこういう世界観でやっている会社・ブランドなんだ」ということが浸透すれば、いつかチャンスが来た時、顧客になってくれるかもしれません。


リトルプレスの効果

 では、世界観をどのように発信すればいいのでしょうか。しかも低予算で。

 答えは、リトルプレスの発行です。リトルプレスとは、言い換えれば小冊子、紙の印刷媒体です。フェイスブックやブログなどのSNSでの発信ももちろん大事ですが、紙であれば手元に残ります。そして手元にあれば、SNSのように「流れて消えてしまう」ことなく、繰り返し目にしてもらう確率が高まるのです。

 株式会社無垢(出産祝いのココレカ、www.baby- oiwai.com)はこのたび、離乳食について考えるリトルプレスを発行しました。ココレカは出産時にお祝い品を買ってもらうネットショップですが、「出産」の次に来る大切な「イベント」は離乳食への切り替え。赤ちゃんが初めて「一人の人間」として食事を始める離乳食。とても大事です。ところが、新米ママは手探りで進むしかない。本で読んでも、分かったような、分からないような。特に昨今は親と同居する人は少ないので、「ちょっと教えて」というのもなかなか難しい。

 そこでココレカは、「We are what we eat ―食べることは、いきること―」と題し、顧客やフェイスブックページで「みんなの離乳食、見せてください!」と呼び掛けたところ、ぞくぞくと写真やコメントが集まりました。顧客参加というのも、リトルプレスを浸透させる秘訣です。だれしも、自分の子供の写真や自分のコメントが掲載された冊子は大切にするし、人にもおすすめするものだからです。協力してくださった顧客に自社製品と一緒にリトルプレスを送ると、すぐにその製品を身に付けたお子さんの写真を送ってきてくれるそうです。顧客コミュニケーションが深まります。また、これによって、「出産お祝い品物販の店」から、「新米ママのサポーター」という新しい世界観を印象付けることができます。

 代表の古川理沙さんは、「ふるかわ流」としてご自身の2人のお嬢さんへの向き合い方について書いています。「とりあえずさせてみる」「子供専用の道具を用意する」「『人』として接する」などの具体的な項目を挙げることで、自身の子育てへの世界観を明確にしています。読者はこの文章に触発され、共感することで、ココレカの世界観にも共感することになります。コストは全体でざっくり10万円程度。通常の広告宣伝費に比して、低予算です。

阪本啓一

今週の教訓
ブランドの世界観を発信しましょう

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『共感企業 ビジネス2.0ビジョン』『ゆるみ力』などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp
電子メディア開店! www.orange-media.jp

阪本が選ぶ 読めば分かるこの一冊

ある日突然40億円の借金を背負う ―それでも人生はなんとかなる。

これまで私は「どうやって経営をするか」について徹底的に実行し、利益をあげてきた。しかし、「何のために経営をするか」についてはまともに考えたことがなかった。 (本書より引用)

 著者はキリンビールのエリートビジネスマン、社内結婚した奥さまと、公私ともに充実した生活を楽しんでいました。と、父親の急逝によって図らずも居酒屋チェーンの経営を託されることに。ところが会社は火の車。40億円の借金をかかえ、銀行からは返済に80年かかると宣言されます。「流れ」と呼ばれる板前は経営者の言うことなど聞かず、覇気のない店舗スタッフ…それでも日銭商売の哀しさ、店を閉めたら売り上げが立たず、仕入れのお金もなくなってしまうため、叱ることができない。

 飲食業界素人のにわか社長が16年かけて地べたを這いずるようにして返済していった物語。巨額の借金返済物語ですが、実は一人の人間の成長物語でもあります。それが本書を魅力的なヒューマンドキュメンタリーにしています。

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