2018/05/25発行 ジャピオン968号掲載記事

最終回 M&Aこぼれ話

新しい時代の幕開け
広がるM&Aの裾野

本連載も今回が最終回となりました。私がM&Aの仕事を始めた2008年以降でも、リーマンショックがあり、超円高が起こり、日本企業の業績回復、トランプ政権の発足などさまざまなイベントが起こり、それにより、M&Aのマーケットも大きく影響を受けてきました。

リーマンショックに端を発した金融危機の際には、世界を驚かせるような金融業界のメガディールがほんの数日間に何件も発生して、M&Aにおける瞬発力の大切さを学びました。2011年ごろの超円高の辺りから日本企業のクロスボーダーディールが増加してきて、多少の増減はあるものの、クロスボーダーM&Aを検討する日本企業の裾野は確実に広がっているように思います。

一方、トランプ政権の発足に伴う、経済政策や減税等に伴い、M&Aは増えてくる一方、価格が合わない案件も増えてきており、案件を選別する難易度が増しているようにも思います。

半年、1年でも変化

また、業界を跨いだ競争、業界の垣根を超えるM&Aも増えてきているように感じます。グーグルのようなIT企業が自動車を開発し、また自動車製造に使われる部品の素材も、軽量化の過程で、鉄からアルミあるいは強化プラスチックのようなものも検討されるようになり、業界の垣根を超えた競争が活発化しています。それに伴い、M&Aも「えっ!」と思うような、他業種による案件も増えてきており、案件をマッチングさせるアドバイザーの力量が試される機会も増えてきているように思います。

企業のM&Aに関するニーズも半年、1年で変わっていることを感じます。半年前は、ある技術が欲しかったものの、その半年後にもう一度聞くと、やはりM&Aの対象を探していると時間がかかるため、自分たちで事業を立ち上げることとしたなど、タイミングのようなものがあるのと同時に、時代の流れが速くなってきていることを感じます。

また、M&Aの検討についても、各企業、場合によっては失敗を経験して、ずいぶん慣れてきていることを感じます。ある会社の担当者は、ワインネタで相手企業の心をつかみ、交渉、人間関係構築の勝ちパターンとしていました。日本企業が中国企業に出資した案件では、宴会の席で「乾杯」を繰り返すことで良い関係を作るケースもあり、また、別のディールでは、決裂しかけたディールを最後の最後でひっくり返した敏腕担当者もいました。

すべてが違う案件

どれとして同じディールがなく、全てのディールに必ず固有の問題や論点があり、成功の鍵も各案件で異なりますので、その解決策を手探りしながら一歩一歩、見出していくプロセスがあると同時に、どんなディールでも必ず苦しいときがあるものの、それをどう乗り越えるか、緊急事態が起こっても、そこでいかに強い気持ちを持って乗り切るか、そして最後のひと踏ん張りがディールを前に押し出すのだということを、それらのお客さまから教えていただきました。

M&Aはちょっとした感情のもつれで成立しないことも経験してきました。例えば、ディールの最後で価格を上げることを求められたものの、顧客がそれを受け入れずに、ディールサイズ全体でみれば、ほんのわずかな金額の差であるにも関わらず、最後の最後でディールがブレークしたケースもありました。また別件では、欧州の会社を買収しようとしているお客さまと一緒に、相手の会社のマネジメントにインタビューをしようと、お客さまたちも飛行機のチケットを取ってほぼ徹夜で準備をしていたところ、その欧州に出国する前日に相手の会社から、他の会社に売るから来るな、と言われたケースもありました。

普段は優しくて紳士的なアメリカ人の経営者が、彼らの会社をいくらで売却するかという交渉になると、まさしく人柄が豹変して、そのアメリカ人経営者のお金に対する執着心を低く見積もりすぎていたと反省するケースもありました。

現場の思い

これまでの日本企業は、自分たちに足りない事業を部分的に買収し、一方アメリカ企業は、まずは、大規模な買収を行って、不要な部分を後から売却するスタイルの大型買収が多いように思っていました。一方、今年に入り、日本企業による過去最大規模のクロスボーダーM&A案件の公表が行われ、また買収手法も「単なる現金での買収」からさまざまな手法を用いた複雑なストラクチャーの案件が増えてきており、新しい時代の幕開けのようにも感じます。

この連載の第1回目にも書きましたが、新聞などで公表されるM&A案件の背後には、さまざまなドラマがあり、この案件を何としてでも成し遂げようという、現場の担当者の強い思いが詰まっていると思います。

これからも日米のクロスボーダーM&Aを含めたM&A案件はもっと増えていくと思いますし、たとえ小さな新聞記事であったとしても、そのM&Aの案件が公表されるまでには、当事者の皆さまの苦労や喜びがあるはずですので、その裏側にも思いをはせると、同じニュースでも違った見え方ができるかもしれません。1年間の連載にお付き合い頂きましてありがとうございました。

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 当コラムは、筆者の個人的見解に基づいた意見であり、DCSアドバイザリー社の総意の見解ではありません。

後藤里史

後藤里史

大和証券グループの資本業務提携先であるSagentAdvisorsにて、主に日本企業が北米企業を買収する際のM&Aアドバイザリーを担当。大和証券入社後、財務部、留学、経営企画部を経て2008年よりM&Aアドバイザリー業務に従事。東京都出身、慶応大学商学部卒業、コーネル大学MBA修了。

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