2018/04/27発行 ジャピオン964号掲載記事

第11回 買収のストラクチャー

M&Aの成功のカギは
お互いが納得できる形

 日本企業が米国企業を買収する場合、その会社の株式を買収することが多いのですが、必ずしもそればかりではありません。例えば、ある会社の欲しい事業のみを買収する場合もあれば、二つの会社(自社と対象会社)を合併するようなケースもあります。また日本の親会社がその米国企業を買収するのか、あるいはその日本企業の米国の子会社が主体となって買収するのかで、法律上あるいは税務上影響があることもあります。通常、案件の初期段階でおおむねのストラクチャーの見通しをつけて、DDの過程で、より詳細にストラクチャーを検討する事例が多いように思います。

買収は全体か一部か

 まず、どのディールでもほぼ必ず検討するのが、会社全体の株式を買収するのか、それとも、一部の事業を買収(資産買収)するのかという点です。資産買収の場合は、購入したい資産のみを買収できること、あるいは、その対象会社が持っている訴訟などの負の資産を引き継がないようなストラクチャーが組めるなど、買い手にとってメリットのあるケースが多いです。

 一方、資産買収の場合には、買収する資産を特定する必要があることから、契約書等の書類が膨大となり、また、元々買収対象会社が保有していた許認可等を引き継ぐことが難しいケースもあるため、専門家も交えて慎重に検討する必要があります。

 また従業員の承継についてもすべての従業員が自動的に継承される訳ではないため、取引が煩雑になるケースが多く、株式買収の方が、時間的に迅速にできるケースが多いというメリットもあります。資産買収の場合、売り手にとっては良いところだけを持っていかれてしまい、訴訟などの負の資産だけが残ってしまうケースもあるので、一般的には、買い手は資産買収、売り手は株式売却を希望するケースが見受けられるのですが、実際には買い手と売り手の交渉上の力関係で決まることが多く、また資産買収の場合には、消費税や不動産取得税のような税金が発生することがあるなど、ここに書いた論点以外にもさまざまな論点がありますので、それらも考慮して両者で協議をして決定します。

実行は本社か子会社か

 また日本の親会社が対象会社を買収するのか、それともアメリカの子会社が対象会社の買収主体になるかという点もいつも論点となります。一般的には、買収した会社で稼いだお金を他の北米子会社で活用できたり、米国内で連結納税を行うことができるケースがあるなど、米国子会社が買収主体となる方がメリットがある場合が多いため、これまで私が経験してきたディールでは、米国法人(日本企業の米国子会社あるいは新しく新設する米国子会社)が買収主体になるケースが多かったように思います。また、日本企業が米国の上場企業を買収する場合には、日本企業の米国子会社が対象会社に公開買付けを実施した後、その米国子会社と対象会社が合併し、対象会社の少数株主に現金を交付して株主の地位から退いてもらうことにより100%子会社化を実現することが一般的ですので、上場会社の買収でも、米国の子会社が買収主体となるケースが多いように思います。

現金か株式で対価

 米国企業同士の買収で、買収する側の企業が上場企業の場合には、買収する対価を現金ではなく、自分の会社の株式にするという方法もあります。アメリカ企業同士の買収では株式を対価にするケースも多く、また株式対価の場合、現金をかき集める必要がありませんので、より大きな規模の買収が実現できる可能性が高くなります。一方、日本企業の場合は、株式対価として買収する場合、有利発行の問題や税務上の問題、そもそも日本企業の株式が米国企業の株主に受け入れられるか、といった根本的な問題などから、日本企業が米国企業の買収を検討する際に、株式を対価にするケースはこれまで非常に限定的でした。

 また出資比率をどうするかということも一つの重要な論点となります。子会社にしないと買収する会社をきちんとハンドルできないという考え方がある一方、買収対象会社が成長している会社の場合ですと、成長するための資金が必要であるため出資は受け入れる一方で、買収されることには難色を示す場合もあるため、買収ではなく一部出資にせざるを得ないというケースがあります。また買収する側にとっても、買収によるリスクを低減させるため、まずは業務提携や一部出資を行って、事業上の関係・信頼関係を築いてから、数年後に買収を行うというケースもあります。

論点に相互の利益

 このように、企業買収のストラクチャーにはさまざまな検討項目があり、税務・法務の論点も含めて考える必要があるため、非常に複雑です。しかしながら考え方としては、もちろん自分たちにとって総合的に勘案して良いストラクチャーを考えることが一番重要ですが、論点によっては、こちらにとって不利にならない点でも、相手にとっては、ストラクチャー上大きく有利になることもあります。

 このように、お互いにとって納得できるストラクチャーにすることがM&A成功のカギの一つと言えると思っています。

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 当コラムは、筆者の個人的見解に基づいた意見であり、DCSアドバイザリー社の総意の見解ではありません。

後藤里史

後藤里史

大和証券グループの資本業務提携先であるSagentAdvisorsにて、主に日本企業が北米企業を買収する際のM&Aアドバイザリーを担当。大和証券入社後、財務部、留学、経営企画部を経て2008年よりM&Aアドバイザリー業務に従事。東京都出身、慶応大学商学部卒業、コーネル大学MBA修了。

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