2019/03/08発行 ジャピオン1009号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第95回 米朝首脳会談

淡い期待も物別れ
脅威の北、信頼遠く

北朝鮮の非核化を目指した第2回米朝首脳会談が物別れに終わった。米国と北朝鮮双方が、落としどころを見いだせないという準備不足のまま、首脳会談に突入したからだとみられている。

米国サイドでは、トランプ米大統領が掲げる外交政策の目玉の一つが揺らぐこととなった。筆者は実は、この首脳会談「続編」が成功すれば、偶然かもしれないが、トランプ氏は歴史に名を残す大統領になるかもしれないと思っていた。北朝鮮の首脳と短期間に2回も会った大統領などいないからだ。

また、朝鮮半島の「非核化」という大義名分を果たしながらも、北朝鮮への警戒を解かない方法もあるだろうと思っていた。しかし、それは結局実現しなかった。

決裂理由のなすり合い
相互理解の不足

トランプ氏は「彼らは完全な解除を望んだが、それには応じられない」とし、寧辺(ニョンビョン)の核施設を廃棄するとの北朝鮮の提案は「不十分だと感じた」と明かした。北朝鮮が十分な「非核化」の措置を申し出ることなく、「完全制裁解除」を求めたという。

この後、トランプ氏は会談の場を立ち去ったという。一方、北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は制裁の「一部解除」に見合う提案をしたが、米国が拒否したと批判。会談決裂の理由を巡って、「なすり合い」が生じている。

核武装の問題が、日本にとっての脅威であるばかりでなく、拉致問題もある。生存しているのかいないのかも含め、残された家族は、やるせない思いを日々抱えている。

たとえ解放されたとしても、北朝鮮の影は付きまとう。米国のバージニア大生、オットー・ワームビア氏(22)は北朝鮮の刑務所から解放され、2017年6月12日に出身地のオハイオ州の病院に入院した。解放された時点で昏睡状態で、北朝鮮の係官に両脇を抱えられて、ふらふらと歩いている痛ましい映像が伝えられた。

昏睡状態の理由を、北朝鮮は「細菌に感染した」と説明したが、帰国時に頭部に複数の損傷があった。同氏は、わずか1週間後に、死亡している。

北朝鮮には他にも、警戒しなくてはならない点は多い。ニューヨーク・タイムズによると、北朝鮮は過去1年半にわたって、米国と欧州の金融機関、電気・ガス会社などのハッキングを繰り返しているという。サイバー攻撃が始まったのは、トランプ氏が金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と揶揄(やゆ)した時と一致している。さらに、「非核化」への道を探る首脳会談が行われた後も攻撃は続いている。

記事によると、セキュリティーソフト会社マカフィーの研究者らは、北朝鮮にあるサーバーが、エネルギー会社のハブであるテキサス州ヒューストン、そして金融のハブであるニューヨークにある100にも上る企業を、一斉攻撃しているのを確認したという。ニューヨークも、北朝鮮からのサイバー攻撃の標的となっている。

落としどころなき会談
トップダウンのもろさ露呈

こうした北朝鮮の脅威は、記憶にとどめておく必要がある。したがって、正恩氏は信頼に足る人物で、首脳会談を成功に導き、北朝鮮を西側諸国の友人にできると自信を見せていたトランプ氏のアプローチは、極めて甘かったと言わざるを得ない。

また、トランプ氏は、会談を延長して、落としどころを探るというような、通常の外交プロセスを取らなかった。日本を含め、世界に大きな影響を与える首脳会談からいきなり立ち去るドラマを誇示し、保守的なメディアや支持者には「よくやった」と言わせた。しかし、これはトランプ氏の「トップダウン外交」の脆(もろ)さであり、破綻である。

ちなみに、トランプ氏に対する支持率は46%と、民主党選出の前任者であるクリントン、オバマの両氏が任期中のこの時点で得ていた支持率と同様だという(ウォール・ストリート・ジャーナル、NBCニュース調べ)。「よくやった」の表れではないだろうか。国境の壁の予算を必死で獲得しようと民主党と戦っている姿勢も後押しした。

しかし、北朝鮮問題を含む外交政策が評価できないことは、強調したい。

期待から一転、米朝関係は再び緊張の度を増している

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

米朝首脳会談

史上初となる米朝トップの会談は2018年6月12日、シンガポールで行われた。両首脳は合意文書に署名、トランプ氏が北朝鮮の体制保証を約束し、金正恩氏は朝鮮半島の「完全なる非核化」に向けて取り組むことを確認し合った。トランプ氏は署名式で迅速な非核化プロセスを強調。前回から1年もたたぬ間の第2回会談の実現に、成果に対する期待は高まっていた。決裂を受け、第3回会合など今後の見通しをめぐり、不透明感が強まっている。

あわせて読みたい

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


ただいま配布中発行

特集
夏だけ入島できる特別なリゾートとして、ニューヨ...

   
Back Issue 2019
Back Issue 2018
利用規約に同意します