2019/02/22発行 ジャピオン1007号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第94回 一般教書演説

軽蔑と忠誠、分断深く
移民めぐりトランプ節

民主党や無所属では、ふくれっ面、軽蔑の拍手、頬づえ姿が映され、共和党からはトランプ大統領の忠犬閣僚たちの熱心な拍手――。2月5日、トランプ大統領による一般教書演説が行われた生中継は、ドラマに満ちていた。この国の「分断」をじかに目撃するためには、こうしたイベントは生中継、つまり現場を見るべきだと痛感した。

トランプ氏は、こう切り出した。「多くの課題の解決(ブレイクスルー)を得るために、ここに立っている」。そして、民主党に向けて手を広げてみせ、米国民は「われわれが二つの党ではなく、一つの国家として統治することを期待している。わが党が勝つことが勝利ではない。わが国が勝つことが勝利だ」と述べた。ここまでは、極めて普通の一般教書のように聞こえた。

トランプ節次第に発揮
不法移民を敵視

しかし、次第に厳しい、いつもの口調に戻り、不法移民がいかに有害か強調し、メキシコと米国の国境に壁が必要だと説いた。不法移民は、犯罪や麻薬を持ち込み、米国民の賃金を押し下げているとお決まりの主張が続く。「毎年、無数の米国人が不法入国した犯罪者に殺害されている」とまで訴えた。壁の予算は、同氏が要求し、民主党が資金手当てを拒否する構図が続いているため、上下院合同議場の雰囲気が一変して険悪になった。

これ以降、バーニー・サンダース上院議員の頬づえ姿、最年少下院議員で人気のアレクサンドリア・オカジオ・コルテスが眉をひそめる映像が、トランプ氏が与党から拍手を受けている間に映される。

皮肉たっぷり
下院議長が拍手

一方で、合法移民は歓迎するとし、「史上最多の人たちにわが国に入国してもらいたい」と笑顔で述べた。しかし、実際には、政権は合法移民についても減らす措置をも取っている。トランプ氏の後ろに座っているナンシー・ペロシ下院議長が、顔をしかめた。

そんな彼女がすっくと立ち上がり、トランプ氏に向かって、腕を伸ばしてスタンディングオベーションをした瞬間があった。トランプ氏が「報復合戦の政治」はやめて、党派を超えた「協力と歩み寄りを」と呼び掛けたときだ。拍手をしているものの、「よくもまあ、分断の原因であるあなたが言いますね」という感じだ。

これは、ツイッターで「拍手で、怒りと軽蔑、そして復讐の脅迫を伝えることができるなんて、誰が知っていただろう……」と反響を呼んだ。

反セクハラも分断
党派超えられず

筆者は、ニューヨーク・タイムズなどで実況中継コメントを読んでいたが、ペロシ議長は90分の演説の半ばから、あらかじめ渡されていた演説原稿をめくり、どこまで終わったのか何度も確認していた。「堪え難い90分」だったのだろう。

生中継を見て痛感したのは、視覚的な与野党の「分断」でもあった。

トランプ氏が新議会に史上最多の女性議員(大半は民主党議員)が参加したことに歓迎の意を示すと、白い服姿の多くの女性下院議員たちが祝福する歓声を上げた。ペロシ議長も着ていた白で統一した衣装の背景は、20世紀初頭に起きた女性の参政権(サフラージ)を求める運動家らが着ていた色だ。女性蔑視・セクハラの話に囲まれるトランプ氏に対する強烈な視覚的「アンチテーゼ」でもある。

この白いスーツの列が、民主党側に集中していた。これは、もう一つの「分断」をも示す。過去は、超党派で教書を聴こうという狙いから、議員がお互いに対立する党の議員を誘って、隣同士に座る習慣があった。オバマ前大統領の頃まで、一部の議員はそれを実践していたはずだ。しかし、大統領から向かって右側が真っ白な列となっていたことから、与野党議員が互いを誘うということもなくなったようだ。これも残念な現象だ。

トランプ氏は一般教書ののち、議会の承認を得ずに壁の建設費用を捻出するために国家非常事態宣言を出した。民主党が、壁費用の一部計上を妥協としてのんだ直後でもある。

こうした対立しか呼ばない大統領の「ディール」手法で、もはや議会はこう着状態である。これは、国民にとってもよいニュースではない。

米国とメキシコの国境に設けられたフェンス(アリゾナ州)

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

一般教書演説

米大統領が年頭に、国家全体の現状に関する見解、分析を踏まえ、連邦議会両院に対して基本政策や政治的課題を説明する。「予算教書」「大統領経済報告(経済教書)」とともに「三大教書」と呼ばれる。演説が拍手で止まることはあるが、ヤジが飛ぶことはない。ただ事後的には、議員やマスコミによる容赦ない批評の対象となる。2018年の演説では、トランプ氏は雇用創出や景気拡大を大統領就任後の実績として誇示していた。

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