2018/12/28発行 ジャピオン999号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第90回 2018年を振り返る

一層求められる寛容さ
人の立場に立つ想像力

「2018年を振り返り、2019年を迎えるに当たり、「寛容さ」という言葉をキーワードにしたい。

私が尊敬する先輩記者にAP通信・国連担当のイーディス・レデラーがいる。75歳で現役。いつも隙のないファッションで、底が平たいシューズを履き、レコーダーを持って各国の国連代表部大使や外交官を1日中、追い掛け回している。

10年ほど前、彼女の誕生日に集まった記者仲間が、彼女に「願い事」を聞いた。彼女は、息を吸い込んで「Tolerance(寛容さ、忍耐)」と答えた。なぜなら「Toleranceがあれば、戦争や紛争が起きないだろうから」と言う。

ベトナム戦争で初の女性記者として活躍して以来、多くの戦争を取材し、今も国連で、戦争、紛争、人道支援、人権問題、経済格差など世界で絶えない人類の問題について書き続けているイーディスならではの重みのある答えだ。

残念なことに10年経って、寛容さや忍耐は、過去にも増して必要となってきている。

ネガティブな批判
我慢せず口に出す

トランプ大統領のツイートで、どのような単語が含まれているか数えている「トランプ・ツイッター・アーカイブ」というサイトがある。

主なものを挙げると、「フェイクニュース」(344回)、「クリントン」(193回)、「CNN」(71回)、「ニューヨーク・タイムズ」(70回)など。「クリントン」は大統領選挙の対立候補だった他、「フェイクニュース」は、トランプ大統領が主要メディアを総称している単語だから、ここに上げた単語は、批判やこき下ろしなどネガティブな文脈で使われているものだ。

これに対し、唯一ポジティブな意味で使っている単語に「FOXニュースあるいはショーン・ハニティ」(311回)がある。FOXは、トランプに好意的な保守系メディアで、ハニティはその番組アンカーだから、悪いことは言わないだろう。

このように、大統領が日に11、12回発信するツイートは、誰か、あるいは団体をけなし、震え上がらせるものばかりだ。それを約5600万のフォロワーが見聞きし、リツイートしたり「いいね!」をクリックしたりする。

そのうちに、人を批判することを我慢せず、すぐ口にし、行動に移す人が出てこないと言えるだろうか。

車内で小競り合い
忍耐なく嫌悪爆発

12月中旬、ニューヨークの地下鉄で、白人女性がアジア人女性を傘と鍵で殴るなど攻撃する事件が起きた。瞬く間に広がった乗客の撮影映像によると、白人女性は被害者に「あっち行け、チンク(中国人の蔑称)」と言い、録画していた男性に「やめろ、モハメッド!」と叫んだ。男性は「俺はドミニカ人だ」と反論。その他に「白人特権はここでは通用しないぞ!」「彼女がトランプを当選させたんだ」と言った声が飛び交った。白人女性は下車した駅で逮捕された。

地下鉄の中での小競り合いは珍しくはないかもしれない。しかし、このような激しい差別と攻撃は珍しい。これも他人を攻撃することがよくないことだという認識が薄れてきているためではないか。

忍耐もなく、嫌悪を爆発させている。被害者女性は、メディアに対し「白人女性がバッグから取り出したのが、銃やナイフではなく、傘でよかった」と話した。冷静な発言だ。銃が出てきたら、ビデオを撮影する人も、仲裁に入る人もいなかっただろう。

米連邦捜査局(FBI)によると、地下鉄の事件のようなヘイトクライム(憎悪犯罪)は17年、前年比17%増の7100件超となり、3年連続の増加となった。宗教差別に基づくものが23%増、反ユダヤ主義のものが37%増と、恐ろしい伸び率だ。

私たちは、こんなにも偏見と憎悪に満ちた国、そして世界に住んでいる。ツイッターの野放しの発言を見ていても、日本も例外ではない。今こそ、友人イーディス・レデラーが願う「寛容」と「忍耐」、そして他人の立場になってみる想像力が必要だろう。19年もそれを覚えていたい

「トランプ・ツイッター・アーカイブ(www.trumptwitterarchive.com)」では、トランプ大統領がツイートした単語をカウントしている

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

イーディス・レデラー

イーディス・レデラー(Edith Lederer)はAPAssociated Press)通信社の記者。1943年生まれ、ロングアイランド育ち。コーネル大学、スタンフォード大学院卒業。ワシントンDCで記者の仕事を始め、66年にAP通信社入社。71年から女性では初のベトナムの正規海外特派員を務めた。75年にペルー・リマで女性初のAP通信社の支局長に就任。98年から国連の主任特派員として活動している。これまでに、Overseas Press ClubThe International Women’s Media FoundationThe Washington Press Club Foundation The Newswomen’s Club of New Yorkなどから特別功労賞などを受けている。

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