2018/12/14発行 ジャピオン997号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第89回 年末のトランプ

ロシア疑惑調査大詰め
異常な事態は続くのか

年の暮れも迫ったが、トランプ大統領は、いつまでホワイトハウスに居られるのか、という米メディアの報道が目立つ。「ロシア疑惑」、つまり、ロシア政府が2016年大統領選挙に介入した際、トランプ選挙陣営と共謀したのではないか、というスキャンダルに対し、ロバート・モラー特別検察官の捜査が大詰めを迎えている模様だからだ。

これを書いている12月10日現在、モラーの捜査リポートがいつ出るのか、とメディアは虎視眈々(たんたん)としている。これまでに司法当局が公表したドキュメントで以下のことが分かっている。

明らかになる情報

まず、ロシア政府関係者が選挙の前後、トランプ選挙陣営の参謀、トランプの長男、弁護士、顧問ら数人に熱心に接触している。同時に、ロシア諜報機関関係者12人が、民主党委員会のメールをハッキングしたり、対立候補ヒラリー・クリントン元国務長官の評判を落としたりするための作業に関わったとして、起訴されている。

クリントン候補をおとしめる情報を流すという作戦について、長男ドナルド・ジュニアは、ロシア人と会談し、その後「夏以降にそれができたらうれしい」と書き送った。

さらに、トランプ自身は選挙期間中に、ロシアに不動産を持つ交渉をしていたが、それを隠し、有権者に嘘をついた。司法当局へのドキュメントでは、その交渉は、ロシア政府関係者の支援が必要だったとされる。

上記のように、ロシア政府はかなり組織的にトランプ陣営を使って、大統領選挙に影響を及ぼそうとしていた。その真相を知るトランプ選挙参謀のポール・マナフォートは、起訴され、服役することになった。

これまでに書いたことは、裁判所に提出された書面で分かったことで、モラー特別検察官のチームは、これをはるかに超える情報を握っているはずだ。

何が起こるのか?

いつになるのかは不明だが、「モラーリポート」が公表された暁には、何が起こるのか。年明けには、中間選挙で当選した候補者らが議会入りし、下院は民主党が過半数を握る。リポートが出れば、そこに登場する疑惑の核心を知る関係者が、次々に下院の委員会に召喚され、証言を迫られるだろう。宣誓に基づく証言によって、ロシア政府とトランプ選挙陣営の不正がさらに暴かれていく。

過去には、ビル・クリントン元大統領のモニカ・ルインスキー事件を捜査したスターリポートは、オンラインで公表されるとアクセスが殺到し、一時接続不能になった。クリントンや関係者の議会証言は、多くの人が会社を休んでテレビで見守った。モラーリポートの後は、この時と同じような事態が起きるのだろう。

一方、トランプ大統領がロシアゲートを知っていたかあるいは積極的に関与し.たことが分かった場合、あるいは前の連邦捜査局(FBI)長官をクビにするなどして「司法妨害」を行ったことが明らかになった場合、下院は過半数で大統領を訴追し、弾劾・罷免プロセスに入る投票を行うことができる。

しかし、下院で可決しても、上院で大統領を有罪にし、罷免するための投票では、共和党が過半数の状況で、必要な3分の2以上の票の確保は無理だ。したがって、今の状況では、トランプの弾劾・罷免は不可能となる。

誰も読めない考え

では、トランプ大統領は辞任するだろうか。彼の心は誰も読めない。わずか1カ月前の中間選挙時は、トランプは20年大統領選挙で再選するつもりで全米を回っていた。今日、モラーリポートという不安要素もなく、民主党に有力な候補がいない現状では、トランプは再選するかもしれない。

約2年前に発足したトランプ政権だが、実は当時に任命された閣僚で、残っているのは「マッドドッグ」と呼ばれた軍人、マティス国防長官だけとなった。他は次々クビにして、1日11、12本とされるトランプのツイートは今日も続く。こんな異常な事態が、来年には少し変化、あるいは改善するのだろうか。

トランプ大統領は先月7日、セッションズ司法長官を解任。翌8日には、全米各地でデモが行われた(写真は8日、ニューヨーク)

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

大統領弾劾手続き

アメリカ合衆国憲法は第2条第4節で、「大統領並びに副大統領、文官は国家反逆罪をはじめ収賄、重犯罪や軽罪により弾劾訴追され有罪判決が下れば解任される」と定めている。弾劾訴追の権限は連邦下院が持ち、特別検察官の捜査結果などを踏まえ、司法委員会などが調査を行う。下院本会議が決議案を採決、過半数の賛成を得て訴追が決まる。弾劾裁判は下院での決議を受けて連邦上院で行われる。大統領は上院で3分の2以上の同意で有罪となれば罷免される。大統領が罷免された場合は、副大統領が大統領に就任する。過去、罷免された大統領はいないが、弾劾裁判に至ったのはアンドリュー・ジョンソン元大統領、クリントン元大統領の2人。いずれも無罪判決。

あわせて読みたい

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画