2018/11/02発行 ジャピオン991号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第86回 移民キャラバン

安全を求め移民が行進
知らぬ間に選挙争点に

米国とメキシコの国境を目指し、前代未聞の移民キャラバンが押し寄せている。米メディアが「人の川」と呼ぶ約7000人超の人々は、なぜ3000キロ以上もの道のりを歩いているのか。私たちの生活に影響はあるのか。


承世界一危険な都市
1000人が出発

彼らは、ホンジュラスから歩いている。米国境南部にメキシコ、グアテマラがあり、そのさらに南東部に位置する国だ。元スペインの植民地で、小国ながら、欧州の戦争に翻弄され、独立戦争や軍事クーデターなどの困難を経て、今日がある。

失業率が高く、国民の半分が貧困層とされる上、麻薬組織やギャングが銃器を持ち歩いて凶悪犯罪を引き起こす。北西部にあるサン・ペドロ・スーラは、「世界一危険な都市」とされ、人口約74万人の街で、1日に3人が殺害されるという。そこを10月13日、約1000人の市民が出発した。

彼らが求めるのは、「安全」と「安定した生活」だ。仕事、きれいな水・食べ物、そして銃弾の犠牲にならずに外出できる、そんな当たり前の生活を、米国で実現しようと、徒歩で国境に向かう。10月末現在、一部は、メキシコ国境を超えたが、米国境に達するまではまだ数週間かかるという。

ホンジュラスからのリポートが、ニューヨーク・タイムズに出ていた。ある失業中の若者は、自宅で母親と一緒に移民キャラバンのニュースをテレビで見ていた。次の瞬間、彼は母親に別れを告げて、家を出ていた。キャラバンに加わるために。

なぜ、集団で歩いているかというと、その方が道中、安全だからだ。米メディアによると、ソーシャルメディアで呼び掛けがあり、安全に米国境にたどり着きたいという人々が続々と集まった。しかし、危険も伴う。山あり谷ありであるばかりではなく、地元の人が定員を超えてトラックの荷台に乗せた人が転落死した例がすでに出ている。

メキシコ国境到達
政府と市民の対応

BBCニュースによると、彼らはグアテマラを突破し、10月19日、メキシコ国境に到着。しかし、メキシコは、有効なビザやパスポートを持たない人は、入国を許さない方針で、入国できたのはわずかに数百人。5000人以上がグアテマラ側の橋で待たされ、病人も出た。また、いら立つ人々が投石し、警察と衝突した結果、数人が負傷し、子供が親とはぐれたりした。ビザやパスポートを持たないため、待つことを見限り、国境の川を泳いで不法に入国する人も相次いでいる。

しかし、メキシコ市民は、彼らを食事やシェルターで迎えている。病人を自家用車に乗せて走る市民もいる。国境に接する都市の市長自らが、指揮をとって、平和に移民を迎えようとしている。


大統領の発言が
移民感情に影響

これが、米国の国境に達したら、どうなるのか。トランプ大統領は、選挙戦の時からメキシコ人を犯罪人呼ばわりしていた。今回も米兵5200人を国境に派遣するとしている。ツイートでは、キャラバンに「犯罪者や、正体不明の中東の人間が混ざっている」と、具体的な証拠を提示しないまま、テロリストが入国を目指しているような印象を植え付けている。

「この国に違法に来る、あるいは違法に来ようとしている人たちを見るたびに、民主党のせいだと思うように。どうしようもない移民法を変えるための票を、民主党がくれないんだ!」とも。しかし、移民法の成立反対には、共和党議員も加わったため、これは「フェイクニュース」だ。同時に、民主党を敵視するように訴えていることから、移民キャラバンは、移民らの意思とは関係なく、11月6日の中間選挙の争点になってしまった。

その中で10月27日、ペンシルベニア州ピッツバーグのユダヤ教シナゴーグが銃で襲撃され、11人が殺害される事件が起きた。銃を乱射したのはロバート・バウアーズ容疑者。CNNの報道では、彼は犯行直前、ソーシャルメディアで、移民キャラバンがユダヤ人の団体が手助けしていると主張し、「もう我慢がならない」とシナゴーグに向かったという。

何も知らない移民キャラバンの人々が、ヘイトの対象となる発言が大統領や保守派から出て、それが悲惨な殺人事件につながったと米メディアは分析する。今後も大きな問題となりそうだ。

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

ヘイトクライム(憎悪犯罪)

特定の人種や民族、宗教、性的指向などを持つ個人、集団に対して、偏見や憎悪を動機として引き起こす暴行などの犯罪行為。アメリカ連邦法の定義では「人種、宗教、性的指向、民族への偏見が、動機として明白な犯罪」を指す。アメリカでは1968年に連邦保護活動法が成立。「公立の学校への通学」「投票」「州や自治体の施設での活動」などを連邦保護活動と定義し、人種や国籍、宗教に対する偏見に基づく、暴力、脅迫などの犯罪行為を禁じた他、94年のヘイトクライム判決強化法では差別犯罪は通常の犯罪の刑罰より反則レベルを3段階厳しくするよう規定したガイドラインが制定されている。

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